クリス・ミラー(千葉敏生訳)『半導体戦争』(ダイヤモンド社)

「放課後ミステリクラブ」、さっそく買ったらチビが一瞬で読み終えて、「おもしろかったよ」とご満悦でした。

 

半導体の歴史は、第2次大戦後における世界の覇権の歴史でもある。

最初はアメリカ国内の物語であった。真空管の時代から、トランジスタが登場し、シリコンウエハーを用いた製造技術によって半導体が飛躍的に革新を遂げる。技術の進歩するとともに、軍事的な重要性も高まり、ついにソ連軍はアメリカの半導体の前に屈する。

ソ連の次にアメリカに立ちはだかったのは日本であった。市場を席巻する日本の半導体は、日米間に経済戦争を引き起こす。
1990年代に入ると、アメリカでインテルが復活を果たし、日本の時代が終わる。そこへ台湾(TSMC)と韓国(サムスン)が殴り込みをかける。ジョブス率いるアップルも負けてはいない。我が世の春を謳歌したインテルであったが、イノベーションを忘れた企業が生き残れるほど市場は甘くはない。

そこへ中国が台頭してくる。国家ぐるみでどんな手を使ってでも半導体の覇権をアメリカから奪いに来た中国と、トランプのアメリカ、そこにTSMCサムスンが加わって、米中間の緊張が高まる。

最終章では中台戦争についても言及されている。台湾の半導体産業が「シリコンの盾」となってアメリカの関与を引き出して中国を抑止できるという考えに対して、著者は懐疑的である。米中戦争が勃発した場合、半導体に関しては米ロ間のようなワンサイドゲームになることはなく、中国はTSMCを奪取することを躊躇せず、その結果世界経済は深刻な危機に陥りかねない。

 

ナノミリメートル以下の極小の世界から浮かびあがる、壮大な物語。
とてもおもしろく、一気に読み終えた。
原著は2022年に刊行され、邦訳が出たのは2023年。

(こ)