ジョン・W・ダワー『戦争の文化 パールハーバー・ヒロシマ・9.11・イラク』上・下巻(岩波書店)

 ジョン・ダワーの作品といえば、大先生の紹介にもあった『敗北を抱きしめて』があまりにも有名であるが、本書はその続編とも、ダワーの集大成ともいうべきものである。

 テーマは「戦争の文化」。
 真珠湾攻撃と9.11を対比させ、それへのアメリカの反応を対比させ、対米開戦と対イラク開戦とを対比させ、無差別爆撃や原爆投下や捕虜虐待を正当化する論理を対比させる。1941年のアメリカと2001年のアメリカに共通するものは、1941年のアメリカと2001年のアメリカに共通するものは、あるいは1941年の日本と2003年のアメリカに共通するものは、1945年のアメリカと2001年のオサマ・ビン・ラディンに共通するものは、さらには1945年のアメリカと2003年のアメリカに共通するものは・・・?
 勝手な思い込み、都合のいい将来予測、「空気」が支配する「グループ思考」、異論の排除、ナショナリズムの昂揚、不法行為や非人道的行為の正当化、おごり、偏見、人種差別、戦争指導者による無制限の権力行使の是認・・・そこには、ありとあらゆる「戦争の文化」が詰め込まれている。
 日本の軍国主義者たちが愚かで、勝利したアメリカが偉大であったわけではない。いつになっても、戦争を喜ぶ人たちによって「愚行」は繰り返される。戦争指導者たちへの著者の冷静かつ徹底した批判が投げかけられる。

 分厚い脚注と参考文献をすべて確認したのではないけれど、アメリカにおいてもパールハーバーを予見できなかったことは「失敗」として研究の対象となっていたり、イラク開戦についてのアメリカにおける分析についても、その方向性を確認することができる。

 なお本書は、『敗北を抱きしめて』に勝手な解釈が与えられ、イラク占領を正当化する根拠とされてしまったことへの、著者の抗議の意味も込められている。

 原本は2009年発行。欲を言えば、この訳書はあと10年早く出てほしかった。

 

 

(こ)

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