本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

大先生の次の1冊はきっと「あれ」だろうと思っていたのですが・・・。
次が「あれ」でなかったら、私が書かせていただこうかな、と。

 

「こども庁」が自民党保守派(というか宗教団体系と呼ぶべきだろう)の反発によって「こども家庭庁」として発足したのが昨年4月のことである。子どもは母親を中心とする家庭で育てられるべきであり、個人の権利をいたずらに唱えることは日本の伝統的価値観と相容れない、ということだった。

その「家庭」が実は、伝統的価値観を表すどころか、むしろ日本の伝統的な家族のあり方(「家」)と対立する概念であった、ということが、本書の冒頭で示される。(独立した)父と母と子どもによって構成される近代家族における性的役割分業と母親の愛情をベースとする育児は、むしろ西洋流の個人主義に由来するとみなされ、進歩的・確信的なものとみなされていた。それがいつどのようにして保守的なキーワードとなっていったのかを、家庭と家族のあり方の変遷を追いかけながら明らかにしたのが本書である。

「家庭」をめぐる議論は、個人の感情や価値観と強く結びついて語られる。他方、「家庭」論は道徳論や人生論にとどまらず、個人=家族=社会=国家をどのように結合するかという社会構想に強く関係するものであった。

こうした議論の推移を丹念に資料を追い紡ぎ上げてきた著者の労力には、ただ脱帽するのみである。家族社会学を学ぶ者にとっての必読書として、今後語り継がれていくことであろう。

なお、「家庭」の誕生、という編集者がつけたタイトルに、著者はあとがきで不満を述べている。「家庭」や「近代家族」は著者が発見したものではないからである。

(こ)