五十嵐律人『嘘か真言か』(文藝春秋)

文化祭・・・青春だなぁ。 ---デビュー作『法廷遊戯』を当ブログで紹介した五十嵐律人さん。新刊は、なんと裁判官を主人公にしたミステリとのこと。ということで早速読んでみた。『嘘か真言(まこと)か』。 志波地方裁判所の刑事部に配属された若手裁判官・…

(今日から3日間、文化祭です。まったく時間の余裕がなく、今週はパスさせてください)

阿部拓児『アケメネス朝ペルシア』(中公新書)

古代ギリシアの歴史は、アケメネス朝ペルシアとの外交ないし戦争の歴史でもあった。そこで今度はペルシア側の歴史を知りたいと思い、読んでみた。阿部拓児『アケメネス朝ペルシア』。 副題に「史上初の世界帝国」とあるように、アジア・アフリカ・ヨーロッパ…

小島俊一『2028年街から書店が消える日』(プレジデント社)

2028年というのは、学校での電子教科書の導入が本格化する予定の年である。学校や図書館との取引が生命線となっている街の書店にとって、残された時間は短い。 出版社、取次、書店、それぞれに問題があって、法令あるいは商慣行が問題を固定化し、解決困難な…

塩野七生『ギリシア人の物語』(全4巻・新潮文庫)

今年の夏はこれを読んで過ごした。塩野七生『ギリシア人の物語』。 「塩野七生・最後の歴史長編」と銘打ったこの作品。古代ギリシアの興亡を全4巻で駆け抜ける。 第1巻は「民主政のはじまり」。古代ギリシアのアテネで民主政はいかに生まれ、進展していっ…

寺岡泰博『決断 そごう・西武61年目のストライキ』(講談社)

ちょうど1年前の2023年8月31日、池袋でそごう・西武労働組合がストライキを起こしてデモ行進をした。 本書は、寺岡執行委員長が当時を振り返った記録である。 そごうと西武という2つの百貨店が、バブル崩壊を経て、生き残りをかけて苦しみながら何度も生まれ…

金子玲介『死んだ石井の大群』(講談社)

『死んだ山田と教室』で鮮烈なデビューをした金子玲介さん。その2作目ということで読んでみた。『死んだ石井の大群』。 白い部屋に集められた333人もの「石井」。生き残るのは、1人だけ。他方、探偵事務所を営む男のところに、人探しの依頼が――。 「教…

橋本幸士『物理学者のすごい日常』)(集英社インターナショナル新書)

橋本教授は京都大学の素粒子物理学の先生。「小説すばる」にエッセイを連載中。そして本書はそれをまとめたものである。文才のある理系の先生のエッセイって、とにかく軽妙洒脱なのが多いんだよなあ。 いきなり、人間の知性というか脳のニューロンや人工知能…

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』(講談社)

「東京地裁で発生した籠城事件」――これだけで、もう読もうと思った。呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』。 その前に、まずは前作『爆弾』から読んでみた。 東京都内に仕掛けられた爆弾。自称「スズキタゴサク」と警視庁の刑事らとの知能戦。次から次へと展開される予…

吉田裕『昭和天皇の終戦史』(岩波新書)

本書が刊行されたのは1992年(平成4年)。昭和天皇が崩御し、いわゆる「独白録」が世に出された時期である。その後、終戦に関する研究は進み、昭和史を総括する形で「実録」も刊行された。 本書は、太平洋戦争の開戦から戦局の悪化、終戦工作、占領という一…

駄犬『誰が勇者を殺したか』『誰が勇者を殺したか 預言の章』(角川スニーカー文庫)

「勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。」 昨年出版されたこのライトノベルがとんでもない売れ行きを見せているというので、早速読んでみた。駄犬『誰が勇者を殺したか』。 魔王が倒されてから4年後の世界。勇者をたたえるべく、その偉業を編纂…

集英社文庫編集部編『短編工房』(集英社文庫)

今週は月曜日から土曜日まで、顧問しているクラブの大会が続いたので、こんなときにはアンソロジーをカバンに入れておいて、空き時間に読む。 たいてい、短編集にはいくつかちょっと相性が悪い作品が入っているものなのだが、これは違った。全部が大当たりだ…

鈴木紀之『ダーウィン』(中公新書)

その『吾妻鏡』の隣にあった本。鈴木紀之『ダーウィン』(中公新書)。 『種の起源』で進化論を唱えたチャールズ・ダーウィン。その生涯をめぐる本である。 『ビーグル号航海記』は全訳で読んだことがあった。エキサイティングな冒険話かと思ったら全然そん…

藪本勝治『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』(中公新書)

フランスといえばナポレオン、ナポレオンといえば・・・久しくやっておりませんね。 そうかぁ、大先生、『吾妻鏡』買わなかったのかぁ・・・と思い、それなら私が、と色気を出してしまいました。 身の程知らずでした。大河ドラマ見た程度では、手を出すべき…

金子玲介『死んだ山田と教室』(講談社)

『吾妻鏡』、実は本屋でぱらぱらと眺めていました。著者は灘の国語の先生なんですよね。世の中、いろんな人がいるな~。ちなみに買ったのは、その隣にあった本。ウミイグアナ、ゾウガメ、フィンチ・・・。 --- またまた、ものすごい新人が現れた。金子玲介『…

西村カリン『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)

大先生による『吾妻鏡』の講評が楽しみです(圧力?)。 パリ五輪開幕。開会式はいろんな意味でフランスやなぁって感じであった。(ちなみに、マリー・アントワネットの「首落ち」芸とか、あれだけ振り回しても消えなかったトーチは、日本産らしい。) とい…

森バジル『ノウイットオール あなただけが知っている』(文藝春秋)

直木賞は一穂ミチさん『ツミデミック』に! おめでとうございます!今回の短編集は完璧でした。 また、選考委員会で『ツミデミック』の他に票が集まったのは、なんと麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』! 惜しくも受賞を逃したとはいえ、デビュー2作…

渡辺将人『台湾のデモクラシー』(中公新書)

大先生、直木賞予想、当たりましたね。 今年の5月、台湾で選挙が行われ、民進党の頼清徳氏が第8代総統に選出される一方で、与党民進党は議会で過半数を得ることはできなかった。実は台湾で民主的な選挙が行われたのは1996年が事実上の始まりであり、国民党独…

森バジル『なんで死体がスタジオに!?』(文藝春秋)

ここ半年ほどの間に読んだエンタメ小説の中では、間違いなくトップクラスの面白さであった。森バジル『なんで死体がスタジオに!?』。 テレビ局の若手プロデューサー・幸良涙花(こうら・るいか)。進退をかけた生放送バラエティ「ゴシップ人狼2024秋」の…

万城目学『六月のぶりぶりぎっちょう』(文藝春秋)

京都では祇園祭が始まり、神輿洗いが行われ、山鉾が立ち並んだ。となると今年もまもなく『宵山万華鏡』の世界が京の街に出現する。 どうでもいいけど、万城目学×森見登美彦×上田誠(ヨーロッパ企画)のお三方がときどき祇園あたりで呑んでいるらしいのだが、…

柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)

オッサンに若い女性が憧憬のまなざしを…っていうのはそろそろ一度リセットした方がいいと思うんですよね。いや、それ以外は本当にいい小説でしたよ。 さて、こちらは柚木麻子さんの直木賞候補作。『あいにくあんたのためじゃない』。 全6話からなる短編集で…

夏川草介『スピノザの診察室』(水鈴社)

保護者さんが来校されたときのこと。「せんせー、差し入れ、どうぞ」「ありがとうございます、どうしたんですか?」「長五郎餅、本に何度も出てきて食べたかったんで買ったんです。おすそわけ」というわけで、京都に半世紀暮らしていながら初めて長五郎餅を…

一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)

快晴のエスコンフィールド! 大型ビジョンのウエルカムメッセージ!そして幹部の方のご講演!!せんせいの行動力にびっくりです。生徒さんたちがうらやましい。 ---先週に引き続き、こちらも直木賞候補作。一穂ミチ『ツミデミック』。 「パンデミック×犯罪」…

『アンビシャス』その後

修学旅行でエスコンフィールドに行ってきました!ファイターズが札幌ドームを出て誰も見たことがない新球場建設に至った経緯については、鈴木忠平『アンビシャス』で触れられていて、去年の5月にこのブログでも紹介した。 鈴木忠平『アンビシャス 北海道に…

麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)

今回の直木賞候補作は以下のとおり! ・青崎有吾『地雷グリコ』(KADOKAWA)・麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)・一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)・岩井圭也『われは熊楠』(文藝春秋)・柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』(新潮…

勅使川原真衣『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)

前著『「能力」の生きづらさをほぐす』で、「能力」という一件客観的で実はうつろい続ける評価軸に評価する側もされる側も翻弄される現代社会において、そのカラクリを明らかにしようとした著者が、そうした「能力」によって評価する/されることから下りる…

堺屋太一『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』(上下巻・文春文庫)

再来年のNHK大河ドラマは「豊臣兄弟!」。主人公・豊臣秀長を演じるのが仲野太賀さんだと聞いて、一気に興味が高まった。秀長のイメージにぴったりである。これは見たい。 ちょっと気の早い予習をしようと思ったが、秀長についての本で容易に入手可能なも…

今村翔吾『海を破る者』(文藝春秋)

本作の主人公は、伊予河野氏の中興の祖、河野六郎通有である。通有の親族にあたるのが、一遍(別府通秀)。なぜ通秀は武士の身分を捨てて踊念仏を始めたのか・・・物語はそこから始まる。海の向こうでは高麗が元に服属し、大国・宋が滅ぼされた。そして次は…

清永聡編著『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社)

前にも書いたが、NHK朝ドラ「虎に翼」がとてつもなく面白い。戦前戦後の司法界を生き抜く女性という、かなりニッチな主人公であり、なおかつ男女平等という相当突っ込んだテーマを扱いながら、それでいてドラマチックでエンタメ作品としても最上級である…

ジェイミー・フィオーレ・ヒギンズ(多賀谷正子訳)『ゴールドマン・サックスに洗脳された私 金と差別のウォール街』(光文社)

胸くそが悪くなりながら、一気に読んでしまった、ゴールドマンサックスの元マネージングディレクターによる、要するに、金のことしか頭にない白人男性が支配する、女性差別と人種差別だらけでパワハラセクハラまみれのゴールドマンサックスでの18年間の勤務…