渡辺将人『台湾のデモクラシー』(中公新書)

大先生、直木賞予想、当たりましたね。

 

今年の5月、台湾で選挙が行われ、民進党の頼清徳氏が第8代総統に選出される一方で、与党民進党は議会で過半数を得ることはできなかった。
実は台湾で民主的な選挙が行われたのは1996年が事実上の始まりであり、国民党独裁による権威主義体制が終わってまだ30年も経っていない。たしかに対中国との関係から、西側世界において台湾とのパートナーシップはきわめて重要である。ただしアメリカはそういう国には親米の権威主義体制を温存しておくのが常であったし、実際に台湾は長らくそのような状態にあった。それがなぜこのように、台湾では短い期間で政権交代が可能な民主的な選挙が定着したのか。
また、頼清徳氏は医師でありハーバード大学への留学経験を持つ。前任の蔡英文氏はLSEPh.D、その前の馬英久氏もハーバード大Ph.Dを持っていた。国務大臣としてオードリー・タン氏がコロナ禍のさなかに大活躍したことも記憶に新しい。なぜ台湾の政治家はみな高学歴なのか、というのは以前から不思議に思っていた。
そこへ登場したのが本書である。

学歴社会・台湾では、アメリカをはじめとする海外の大学で大学院に通って学位を得ることによって高い地位と評価を台湾国内(もう国内といいます)で得られるという事情があり、その結果、台湾にアメリカ的な政治文化が流入してきたこと、そしてこうしてアメリカとの人的交流が確保されてきたこと、メディアも偏向しまくりなのだが結果的に政権から距離を取って健全な批判が行われること、台湾社会に多様性を認める素地があること・・・さまざまな要因が重なり、その結果として、台湾は今やアジアの民主主義の雄となった。

本書はその過程や実態を、分厚いエビデンスと非常に丁寧な現地取材にもとづいて、鮮やかに描き出す。

良書であり、台湾理解のための基本文献である。

 

(こ)