直木賞は一穂ミチさん『ツミデミック』に! おめでとうございます!
今回の短編集は完璧でした。
また、選考委員会で『ツミデミック』の他に票が集まったのは、なんと麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』! 惜しくも受賞を逃したとはいえ、デビュー2作目でこれだけ評価されたというのは、まさに快挙であります。
---
森バジル『なんで死体がスタジオに!?』が予想外の面白さだったので、この際、単行本デビュー作も読んでみることに。『ノウイットオール あなただけが知っている』。
全5章+エピローグからなるこの作品。一つの街を舞台にしつつも、なんと章ごとに「推理小説」「青春小説」「科学小説」「幻想小説」「恋愛小説」という、異なる5つのジャンルから成り立っている。こんな構想、見たことがない。アイディアの勝利である。
第1章の推理小説は「探偵青影の現金出納帳」。探偵とその助手という王道を行くミステリでありながら、そのキャラ付けなどの要所要所に工夫が光る。
第2章の青春小説は「イチウケ!」。M-1を目指す高校生コンビというどこかで見た構図だが(もっとも「成瀬は天下を取りに行く」とほぼ同時の刊行なので、一方が他方を参照したということはなさそう)、これまたストレートな青春物語となっている。選考委員の辻村深月さんの一押しのパートでもある。
第3章の科学小説は「FUTURE BASS」。科学小説すなわちSF小説である本作は、文体までががらりと変わる。・・・っていうかこれ、伊藤計劃の文体なのでは!? 筆者の多彩な能力に驚かされる。
第4章の幻想小説「ラクア=ブレズノと死者の記憶」、第5章の恋愛小説「恋と病」を経て、ラストの「エピローグ」でこの物語は締められる。
それぞれのストーリーは独立しているように見えて、実は相互につながっている。あちこちに仕掛けられた伏線が楽しい。最後の最後まで、読者を楽しませようとする仕掛けが満載であった。
(ひ)