今回の直木賞候補作は以下のとおり!
・青崎有吾『地雷グリコ』(KADOKAWA)
・麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)
・一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)
・岩井圭也『われは熊楠』(文藝春秋)
・柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)
先日紹介したばかりの青崎有吾さん『地雷グリコ』! これだけエンタメに振り切った作品が候補になるとは…。そしてデビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を紹介した麻布競馬場さん! なんと2作目で初のノミネートです。
当ブログでも度々紹介している一穂ミチさんは3回目、柚木麻子さんは6回目のノミネートとなりました。…いよいよかな。
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というわけで、まずはこの作品から。麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』。先にも書いたとおり、著者にとって2作目の作品である。タイトルがなんとなく『万延元年のフットボール』を思わせる(気のせいかも)。
全4話からなる連作短編集である。
第1話「平成28年」は、慶應のビジコンサークルを舞台に「意識高い系」の学生らを描く。もう最初から全速力である。
続く第2話「平成31年」はキラキラした人材派遣会社に務める女性の話。「働き方」「生き方」のベクトルが幾重にも重なる。第3話「令和4年」はZ世代のシェアハウス。主人公の過去と現在が交錯。人は果たして変われるのか。この第2話と第3話、予想をはるかに超える読み応えであった。
第4話「令和5年」は一転して銭湯経営の話。・・う~ん、なんだこのモヤモヤ感は(笑)。
どの話の主人公も、慶應や早稲田など、世間的にはエリートといわれる大学の学生や卒業生である。そこには貧困も病苦も純愛も出てこないし、一見するとキラキラ輝く恵まれた人生のようだけれど、彼ら・彼女らなりに相応の悩みを抱えている。
ふと思い起こされたのが夏目漱石の作品群で、漱石も旧制高校や帝大の学生・卒業生の悩みを描いていた。そういえば本作では東京の地名がやたらと出てくるが、漱石の作品もそうだった。本作品は現代の漱石か。
(ひ)