垣根涼介『極楽征夷大将軍』(文藝春秋)

「螺旋」プロジェクトが勢揃いしている・・・壮観!!

---

直木賞レースの大本命である。垣根涼介『極楽征夷大将軍』。

『光秀の定理』では明智光秀を描き、『信長の原理』では織田信長を描いた著者。今回、全552頁・上下2段組みの超大作で描くのは、足利尊氏である。

「Don't think, feel. Be water.」というブルースリーのセリフで始まるこの小説。尊氏を野心に満ちた武将でも、使命感にあふれた正義の男でもなく、まるで「水」のように形を持たない人物として描き出したのが新しい。ある意味、令和の時代にふさわしいリーダー像と言ってよい。

ところでこの小説、弟の足利直義と、家宰の高師直の両者の視点で描かれている。あくまでも真っすぐな直義と、清濁併せ呑む師直。車の両輪として尊氏を支えていたこの2人は、やがて少しずつ距離を置き始める――。

本作の真の主人公は、尊氏ではなく、直義と師直であろう。この両者を正面から取り上げた文学作品はそうそうなく、そういった意味でも読み応えのある小説であった。

垣根涼介『極楽征夷大将軍』(文藝春秋


(ひ)