周防柳『蘇我の娘の古事記』(角川春樹事務所)

 蘇我氏がけっこう好きだ。ついでに平氏足利直義も好きだ。幕末の長州は大嫌いだ。

 645年の乙巳の変で、入鹿が討たれる。入鹿の娘は、渡来人の船氏の娘コダマとして育てられる。コダマは光を失うが、義兄のヤマドリはコダマの目となり盾となり、ふたりは立派な若者として成長する。ふたりはある事件の後、結ばれ、幸せな家庭を築く。

 ドロドロの権力闘争は続く。時代は中大兄皇子鎌足専制の世となり、白村江での敗戦を経て、大王天智の死の後、大友が大海人のはかりごとによって滅ぼされる。ヤマドリは近江・瀬田に散る。

 コダマはいう。
「歴史とは、滅びた者の歴史だと、私は思うのよ」
「でも、それだけじゃない」

 もうひとつの歴史、それは情念の歴史。

 あなにやし えをとめを
 あなにやし えをとこを

 ここに、すべての伏線が回収される。

 ああ、コダマはその後、稗田阿礼と名乗って、父が生涯をかけた国史の編纂にたずさわることになるのだな・・・と思ったら、最後の最後にまさかの結末。

 章と章の合間には、コダマがいろいろな人たちから聞いた昔話が、語りとして挿入される。これがフルコトブミ(古事記)である。

  

 一気に読み切った。大満足。
 きっと大先生の耳にも、あの先生の声が懐かしく聞こえるんじゃないかな。

蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)

蘇我の娘の古事記 (時代小説文庫)

  • 作者:周防柳
  • 発売日: 2019/02/14
  • メディア: 文庫