市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋)

話題作というので読んでみた。市川沙央『ハンチバック』。

第128回文學界新人賞の受賞作にして、今般の芥川賞受賞作である。

・・・まあ、これは文句なしの受賞作ですね。

端的にまとめてしまえば「重度障害者の生と性」、などということになるのだろうが、実際にはそのような単純な言葉では表しきれない。作者自身が重度障害者ということもあって、健常者ではなかなか気付き得ないような視点が心を打つ。と同時に、単純に文学作品として見ても、よく出来ているなぁと思わざるを得ない。

旧約聖書からエヴァンゲリオン旧劇場版まで幅広く引用し、時には読者を置いてけぼりにしそうな勢いで種々の情報を詰め込みながら、意外な方向へとストーリーが紡がれる。

そして最終章では、これまで読んできた読者を突き放すような展開。文學界新人賞の選評では「最終章の位置づけが不明瞭で混乱を招く」といった指摘が相次いだという。芥川賞の選評で「解釈に関してはいろいろな意見が提示されて議論が盛り上がった」とあるのもおそらく最終章の話だろう。こういう謎めいた終わらせ方、僕は作品に深みが出て良いと思う。解釈が分かれない純文学なんて、意外とつまらない。

市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋


(ひ)