モーパッサン『宝石/遺産』(太田浩一訳・光文社古典新訳文庫)

第164回直木賞の候補作が,以下のとおり発表されました!

・芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』(文藝春秋
・伊与原新『八月の銀の雪』(新潮社)
加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)
西條奈加『心(うら)淋し川』(集英社
坂上泉『インビジブル』(文藝春秋
・長浦京『アンダードッグス』(KADOKAWA

何と全員が初ノミネート。25年ぶりのことだそうです。
当ブログで前作『チュベローズで待ってる』を紹介したNEWSの加藤シゲアキさんも初ノミネートです。おめでとうございます!(やっかみも激しそうだけど・・)

それにしても西條奈加さん,あなたもうベテランじゃないですか・・。初ノミネートとは意外でした。コミカライズもされた『善人長屋』は面白かったなぁ・・。

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さて。

再びモーパッサンの中・短編集を読むことに。今回は『宝石/遺産』。6編の作品を収録している。

やはりどれも珠玉の作品だが,ここでは表題作の「宝石」と「遺産」に言及したい。

まずは「宝石」。内務省に務めるランタン氏は,ひとめぼれした妻と幸せな毎日を送っていたが,2つだけ不満があった。妻が芝居好きなことと,イミテーションの宝石類に目がないこと・・・。

・・・なんだこれは(笑)。

思わず二度読みした。最後の2行がまた秀逸。人生,こんなもんだよ,というモーパッサンのシニカルな笑いが聞こえてきそうである。

もう一編は「遺産」。海軍省に務めるカシュランは,娘を前途有望な青年・ルサブルと結婚させることに成功。ところでカシュランには独身の姉がおり,大金を所持していて・・・。

・・・なんだこれは(笑笑)。

もうね,悲劇を通り越して喜劇ですよこれは。いや,本人たちは必死なんだろうけどね。

いずれの作品も,モーパッサンと登場人物たちの適度な距離感が心地よい。モーパッサン,おもしろい。


(ひ)