西浦博(聞き手 川端裕人)『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(中央公論新社)

都市封鎖中の武漢のようすを書き綴った『武漢日記』は市民の目で見たコロナであるが、これはおそらく初の本格的な、コロナと戦っている側からのドキュメンタリーである。書かれているのは、彼が厚生労働省クラスター対策班で奮闘した1月から5月までの記録であり、川端氏によるまとめやインタビューが氏の証言を補完する。

彼は「8割おじさん」として一躍有名になった。本書の中でもその根拠が丁寧に示される。最悪の事態を想定するのは危機管理であり、たとえば福島沖の地震で15メートル超の津波が発生することもまた、最悪の事態として想定されるべきであったことは言うまでもない。しかし今、日本の第3波はじわじわと拡大する中で、その反動かどうか対策は腰が据わらず(あのときガマンしなくてもよかったんじゃないのか?)、政権幹部は迷走している。

西浦氏をはじめ、多くの日本のエース級の研究者が集まって、何の見取り図もない中でコロナ制圧のために、今も全身全霊を振り向けて打ち込んでいる。大将の尾身茂氏がこの国にいたことは僥倖だと思う一方、本来大将として国民の生命と財産を守るべき政治家の力のなさにため息をつく。

EBPM(証拠に基づく政策決定)という言葉があちこちで言われるけれど、実際にそれをしようとすると、いろんなしがらみや義理や人情が入ってきて(政治とはそういう世界でもあり) 換骨奪胎ということはそこらじゅうである話。しかし、それを当然としてはいけない。今年は日本学術会議問題で、科学者のあり方も問われた。今は、分野を超えてすべての科学者(社会科学系も含む)が総集結し、自分たちの得意分野からできる取組みを進めるべきなのだろう。 

(こ)