松岡亮二編著『教育論の新常識』(中公新書ラクレ)

 編著者の松岡氏は、2019年に『教育格差』(ちくま新書)によってこれでもかといわんばかりにデータの力で日本の教育をとりまく現状を切り出し、その後、さまざまな方面で格差是正のための政策提言を精力的に行っている。また、プロジェクトとして格差に焦点を当てた教育社会学の教科書も編集して公刊したばかりである(『現場で使える教育社会学』)。
 この流れの中で、本書は現代日本の教育をめぐる20の言説を解題したものであり、主に中央公論などの雑誌に掲載された小論をまとめたものである。執筆陣も、若手から中堅の教育社会学者を中心に、ベテランも要所に配置し、教育行政学者、教育経済学者、文部科学官僚までバランスもよい。
 とくに矢継ぎ早に展開される教育改革が、実態は根拠にもとづかない思い付きが上から降りてきて現場に無理やりねじ込まれるプロセスが、これもそう、これもそう、と次々と描き出されるあたりは、もうあきれるのを通り越して、あほらしくなってくる。このあほらしいことに日本中で大真面目に付き合っている時間も体力も、今の日本にはないはずで、「こんなことじゃダメなんです!!」という松岡氏の怒りはよくわかる。
 教育について関心のある人は、一読しておくべきだろう。ムック本として手元に置いておく価値はある。その問題意識から書かれた『現場で使える教育社会学』が空回りしているだけに、現場で使えるのはむしろこっちの方だと思うのです。

(こ)