黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書)

2022年5月15日。
葵祭。沖縄復帰50年。犬養毅首相が襲われて90年。74回目のナクバ。

 

遅ればせながら手にした、元駐ウクライナ大使によるウクライナ史である。

紀元前のスキタイ人に始まり、キエフ・ルーシの建国と、リトアニアポーランドによる占領、コサックの蜂起とロシア併合、ロシアとオーストリアの支配、戦間期のつかの間の独立を経て、ソ連共産党支配下に入る。

現在のウクライナは、350年前に潰えた独立の夢がようやく実現したものであり、いくつにも分断されてきたウクライナが東から西までひとつの国家として確定したものである。オデッサ(オデーサ)と横浜が、そしてキエフ(キーフ)と京都が姉妹都市となったものの、交流はまだまだこれからである。

著者は、ウクライナの人たちにこう言ってきたという。
ウクライナと日本はまったく共通点がないと思っているかもしれないが、そんなことはない、お互いに古い歴史を文化をもち、それを大切に守ってきたこと、とくにコサックと侍は勇気、名誉、潔さなどの共通の価値観をもっており、これが現代にも受け継がれていること、両国とも農業を基礎とした社会であること、両国とも石油・天然ガス資源に恵まれていないこと、しかし教育には熱心で教育水準が高いこと、両国が世界で核の直接の被害者であったこと、お互いに共通の隣人があり、問題を抱えていること、などがある」

また本書を読めば、ロシアから見たウクライナも見えてくる。ロシアにとってはウクライナはあくまで「小ロシア」なのだし、クリミア半島がなぜウクライナなのだと言いたくなるのだろう。

ウクライナの歴史は、穏やかなウクライナの民が、隣り合う大国に蹂躙されてきた歴史であり、その中でウクライナ人というアイデンティティが醸成されてきた歴史でもある。「物語」だったかといわれればそうだとは思わないが、十二分に読み応えのあるウクライナの通史であった。

 

ウクライナに一日も早く平和が訪れますように。

(こ)