芦田均『革命前後のロシア』(自由アジア社)*再版

アリス、やってしまいました、お恥ずかしい・・・汗

 

『物語ウクライナの歴史』の中に、芦田均元首相が外交官時代にウクライナを訪れたことに触れた一節があって、そこで参照されていたのが本書であった。1950年に文藝春秋社から刊行され、1958年再版とのこと。とっくの昔に絶版となっており、府立図書館所蔵分も貸し出されていてなかなか読めなかった。先日ようやく返却されたので、借りてきて読む。

芦田均という人物については、京都府出身で、GNQ内部の権力抗争のあおりを受けて短命に終わった内閣くらいの知識しかなかったのだが、その経歴を改めて知って驚く。東京帝国大学から法学の博士号を授与され、非推薦候補として翼賛選挙を勝ち抜け、政権を追われた後も自民党議員として亡くなるまで現役であり続けたのだそうだ。学生時代にはフランス語の小説を翻訳して雑誌に載せ、それが物議を醸したこともあったのだとか。

本書は、著者が外交官補としてロシア・ペテルブルグに赴任する1914年4月から、任を解かれてペトログラードを離れる1918年1月までの記録である。付録のように10年後にコンスタンチノープルから黒海沿岸を周遊した旅行記や、モスクワでの芸術鑑賞の思い出も記されている。

この4年の間に、彼はいきなり歴史の大動乱に巻き込まれる。
着任早々のできごととして、バルカン半島をめぐる複雑な国際情勢の解題から、サラエボ事件の処理をめぐって一気に緊張の高まる帝国の内情をつぶさに描かれる。ドイツからロシアへの最後通牒を読み上げて大使が泣き崩れる8月1日のようすは胸に迫る(著者はこの場には隣席していなかったが、筆力だけで読ませる)。在ロシア大使館が日本のドイツ・オーストリア情勢の集約窓口だったこともあり、欧州大戦への日本の対応をめぐって大使以下がフル回転する。
ロシア帝室では怪僧ラスプーチンが暗躍し、そんな中でドイツがロシアに放り込んだレーニンの暗躍もあって革命の火蓋が切って落とされる。三月革命。臨時政府はうまくいかず、ボルシェビキが権力を掌握する。
そんな中にあって、筆者はつかの間の独立を達成したウクライナを旅し、文豪トルストイの妻と娘の家を訪れて話し込む。著者のウクライナへの敬愛の情があふれ出した、見事な紀行文学である。
かと思えば、刻一刻と変化する事実を日記形式で淡々と記述し、あるいは、ラスプーチン暗殺シーンや、ひとりのテロリストの処刑のようすをエピソードとして紹介するあたりなど、ミステリー小説さながらでもある(その場に居合わせたかのような台詞回しがすばらしい)。

 

ロシア革命に関する書籍は数多くあって、『世界を揺るがした10日間』なんかは20世紀最高のルポルタージュのひとつに挙げられることもあるが、本書はそれに匹敵するのではないかと思う。もっと読まれてしかるべき一冊である。絶版が惜しい。

 



(こ)