稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

映画を早送りで観る人たちがいるという。NetflixAmazonプライム・ビデオ等の動画配信サービスで映画を観る際に、普通に鑑賞するのではなく、1.5倍速で流したり、スキップをしたりしながら観るのだとか。稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』。

つまらないと感じたら即、飛ばす。あるいは結末を先に知ってから観る――。主に若い世代において、なぜこのような見方が広がったのか。本書は実際にそのような方法を取る人たちに広くインタビューをしつつ、その理由を読み解いていく。

定額制動画配信サービスの広がりにより、とんでもない数の映像作品が供給されていること。他方で「コスパ」(コストパフォーマンス)や「タイパ」(タイムパフォーマンス)を求める人が増えたこと。失敗を極度におそれる風潮。SNSを通じた他者との過度のつながり・・・。本書を読み進めていくと、最初は「とんでもない方法」だと感じられた早送りが、実は社会の状況に裏付けられた必然的な視聴方法であるようにもみえてくる。

本書の論考は、映画を早送りで観る人たちを切り口にした、ちょっとした現代社会論でもあった。

田豊史『映画を早送りで観る人たち』


(ひ)