井原西鶴『好色一代男』(中嶋隆訳・光文社古典新訳文庫)

江戸時代までの文学と明治時代以降の文学との間には断絶があるのではないか。そう思わざるを得ないほど、現代の感覚からするとぶっ飛んだ内容であった。井原西鶴好色一代男』。

色男・世之介の生涯を描いた小説である。

全54章からなるこの小説。作品中、和歌をはじめとする様々な古典のパロディが出てくるのだが、そのほとんどは注釈がないと分からない。そもそも主人公は光源氏のパロディであり、54章という数字も源氏物語の54帖を踏まえたものである。本書は相応に古典的教養のある読者を想定した作品である。

とはいえ、内容としては、世之介が遊郭に行って遊女を買い、その遊女から惚れられる・・・などといった話が延々と続き、現代の感覚からするとアレである。ちなみに世之介が相手にした女性の数は3742人。世之介は男性も相手にしていて、その数は725人だという。

本書が書かれたのは1682年(天和2年)。大坂の陣(1615年)から約半世紀が経過し、平和な世の中となっていた。それまで罪悪視されていた愛欲を肯定的に描いた本書は大ベストセラーとなり、のちにパクリ本も山ほど出た。

井原西鶴好色一代男』(中嶋隆訳・光文社古典新訳文庫


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