ちくま新書に佐々木毅『政治学の名著30』という本があって、まあタイトルどおり佐々木毅が政治学の名著を紹介する本なのだが、これの巻頭を飾るのが、プラトン『ゴルギアス』。・・・渋い。渋すぎる。
ということで以前から気になっていたのだけれど、今般、新訳が出たということで読んでみた。
古代ギリシャの演説の技術である「弁論術」をめぐる対話篇だが、そこで取り上げられているのは、民主政における政治のあり方という、極めて現代的なテーマである。本作でソクラテスが対峙するのは、ゴルギアスとその弟子ポロス、そして若き政治家カリクレス。
まずは高名な弁論術教師・ゴルギアスとの対話。いきなりの大ボス登場という感があるが、意外とあっさり論駁。
次にポロスとの対決。ここでソクラテスは、弁論術についての自らの見解を明らかにする。訳者によって本書81頁に掲載された図表が、理解を助ける(こういうの、ありがたいです。)。これもやや手こずるものの、最後はやはり論駁。
そして3人目、カリクレス。これがなかなか手ごわい。不利になると議論に乗らず、自分の主張を平然と撤回し、哲学そのものを軽蔑する。主張の内容についてみても、強者が弱者を支配し、ものを奪うのはむしろ当然であるという、過激な権力思想を展開する。これに対するソクラテスはいつになく攻撃的に非難し、時には皮肉で応酬し、また大演説をぶつ。
「不正をする」方よりも「不正をされる」方が悪い。絶えず快楽を追求する生き方の方が好ましい。このようなことを堂々と語るポロスやカリクレスは、ある意味、現代に生きる我々にも通ずるところがある。『ゴルギアス』は、まさに今、読まれるべき政治哲学の本というべきであろう。
(ひ)