『テアイテトス』を刊行したばかりの光文社古典新訳文庫から,またプラトンの新訳が出た。『パイドン』である。副題は『魂について』。
ソクラテスの弟子の1人パイドンは,「ソクラテス最後の日」に立ち会う。そこでソクラテスと弟子たちとの間で取り交わされたのは,魂の不死をテーマとした熱い議論であった・・・。
「現在」(パイドンによる報告)と,「過去」(ソクラテス最後の日の様子)という2つの場面のテンポ良い切り替え。弟子たちの鋭い疑問に,沈黙してしまうソクラテス。ついに論破されたのか,というところで,ソクラテスはパイドンの頭をなでて,語り始める・・・。
まるで映画のようであった。
終盤,ソクラテスのロジックに対し,弟子の1人(ケベス)が比較的簡単に折れる。この場面につき,翻訳者の納富氏はこう分析する。「ケベスがあっさりと結論を受け入れたのは,もしかしたらソクラテスの死を目の前にして,これ以上の議論を求めないという遠慮が働いたのかもしれない。人間の時間の有限性が,言論に限界をもたらす。」(223頁)。う~ん,人間ドラマだなあ。
- 作者: プラトン,納富信留
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2019/05/14
- メディア: 文庫
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