プラトン『パイドン——魂について』(納富信留訳,光文社古典新訳文庫)

『テアイテトス』を刊行したばかりの光文社古典新訳文庫から,またプラトンの新訳が出た。『パイドン』である。副題は『魂について』。

ソクラテスの弟子の1人パイドンは,「ソクラテス最後の日」に立ち会う。そこでソクラテスと弟子たちとの間で取り交わされたのは,魂の不死をテーマとした熱い議論であった・・・。

「現在」(パイドンによる報告)と,「過去」(ソクラテス最後の日の様子)という2つの場面のテンポ良い切り替え。弟子たちの鋭い疑問に,沈黙してしまうソクラテス。ついに論破されたのか,というところで,ソクラテスパイドンの頭をなでて,語り始める・・・。

まるで映画のようであった。

終盤,ソクラテスのロジックに対し,弟子の1人(ケベス)が比較的簡単に折れる。この場面につき,翻訳者の納富氏はこう分析する。「ケベスがあっさりと結論を受け入れたのは,もしかしたらソクラテスの死を目の前にして,これ以上の議論を求めないという遠慮が働いたのかもしれない。人間の時間の有限性が,言論に限界をもたらす。」(223頁)。う~ん,人間ドラマだなあ。


(ひ)