アンドルー・ゴードン『日本の200年』(みすず書房)

 ハーバード大学のアンドルー・ゴードン教授による、日本近現代史の教科書である。「徳川体制の危機」「近代革命」「帝国日本」「戦後日本と現代日本」の4部構成となっており、「徳川の平和」に始まり新版では東日本大震災以後までを描く。

 近代化の過程で急ごしらえされた天皇ナショナリズムが、産業革命帝国主義政策を経て、女性・労働者・小作農たちに「同じ国民」としての異議申し立てを可能とさせるプロセスが前半の大きな潮流として位置づけられ、後半では日本帝国の崩壊から戦後復興への流れを、体制レベルでの連続性と変化の両方が絡み合うダイナミズムの中で描く。そして繁栄の80年代から失われた20年を経て「衰退感覚」に支配される現在へと時計の針は進む。日本の未来は楽観すべきものではないが、かといって悲観するものでもない、そんな感じで筆が擱かれる。

 内容としての目新しさや新奇な視点はない。政治・経済・外交・文化・社会すべてに目配りが行き届き、だからこそ、教科書としてとてもよく書けている。どこかの国の首相には、『日本国紀』ではなくこの本を手に、twitterで読書自慢していただきたかったものである。なお、残念なのは翻訳文が読み進める上でかなりのストレスになってしまったことであり、この点だけについては百田氏の文才をお借りしたかった。

日本の200年[新版] 上―― 徳川時代から現代まで

日本の200年[新版] 上―― 徳川時代から現代まで

 
日本の200年[新版] 下―― 徳川時代から現代まで

日本の200年[新版] 下―― 徳川時代から現代まで

 

 (こ)