成井豊・真柴あずき『俺たちは志士じゃない』(論創社)

 5月31日、突然、演劇集団キャラメルボックスが活動を休止するというニュースが飛び込んできた。それも発表したその日のうちに。

 「上川隆也がかつて在籍していた」という枕詞で語られるこの劇団だが、たしかに彼が看板役者であったことは事実だが、個人的には、成井豊真柴あずきの二人がたくさんの戯曲を書き下ろし、毎年精力的に全国公演していたこと、そしてその戯曲を出版したことで、広く高校生や大学生でも演じることができるようにしたという、そっちの方の印象が強い。 
 戯曲の活字化というのはなかなか少なくて、最近お世話になっているヨーロッパ企画さんでも、公刊されているのはわずかに3作のみ。キャラメルボックスは市販されているものが40作品、さらにウェブ上で無料公開されているものが38作品あり、群を抜いている。

 本やDVDはけっこうお値段もするし、上演許諾料を納めないといけないので、高校生相手に商売する人たちという感じでちょっと聞こえは悪いけれど、脂の乗った劇作家さんが書き下ろす、ちょっぴりほろ苦くも甘酸っぱくもある脚本は、ネット上に落ちているフリー脚本にも、図書館に並んでいるちょっと敷居の高い「戯曲集」にもない、舞台づくりの楽しさを感じさせてくれるもので、とても貴重なものだと思っている。

 キャラメルボックスの代表作は「ナツヤスミ語辞典」だといわれている。ちょっとくすぐったいくらいの青臭さが、ほんとうにキャラメルっぽい。

 個人的にいちばんの思い出は、15年前に中学3年生の生徒たちと一緒に舞台化した「俺たちは志士じゃない」。坂本竜馬中岡慎太郎に間違えられた何の取柄もない2人が、新選組に追われるうちに、自らの運命を引き受けるように成長していく(これもやっぱりキャラメルっぽい)物語。殺陣のシーンがあって、夏休み中ずっと刀振り回して練習していたのを思い出す。
 今年の文化祭で再演しようともくろんでいたのだけれど、この作品には上演許可はもう出さないらしい。

 お世話になりました。 おつかれさまでした。

ナツヤスミ語辞典 21世紀版

ナツヤスミ語辞典 21世紀版

 

 (こ)