レヴィ=ストロース『悲しき熱帯 I・II』(川田順造訳・中公クラシックス)

ずっと角田光代訳『源氏物語』を読み続けているため、読み終えた本というものがない。そこで今回は「今まで読んだ中で特に印象に残ってる本」を紹介したい。

クロード・レヴィ=ストロース文化人類学者であり、構造主義の祖でもある。その彼がアマゾン川流域の部族の生活を観察・考察した本が『悲しき熱帯』である。

「私は旅や冒険家が嫌いだ。」(I巻4頁)という異色の書き出しで始まるこの本は、必ずしも読みやすいというわけではない。特に、現地入りするまでの叙述が長く、もどかしさすら感じさせる。

しかし、ひとたびアマゾン川流域に立ち入ると、そこはもう様々な少数民族がそれぞれ独自の社会生活を送っているという、実に魅力的な世界が広がっている。これを描写するレヴィ=ストロースの言葉は豊かであり、なおかつ、「人間は、みな同じようなものではない」(II巻235頁)、「どんな社会も完全ではない」(II巻374頁)などの鋭い指摘もしばしばみられる。

最終章には「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。」という著名な一節があるが(II巻425頁)、これは必ずしも悲観的、悲劇的な言葉ではない。むしろこの後も、レヴィ=ストロースの熱い言葉が続いていく。

読んだ当時の僕がどのくらい理解できていたのか、心もとないところはあるし、今パラパラとページをめくってみても同じ思いがする。しかし、レヴィ=ストロースの情熱は確かに伝わってくる。

もし僕が進路を決めてしまう前にこの本を読んでいたら、文化人類学の方向に進んでいたかも――そんな思いさえする一作である。

レヴィ=ストロース『悲しき熱帯 I・II』(川田順造訳・中公クラシックス



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