ダニエル・ソカッチ『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』(NHK出版)

 2023年は、1973年の第4次中東戦争オイルショックから50年、歴史的な「オスロ合意」から30年という節目の年である。その10月、50年前と同じ「贖罪の日」にガザからハマスイスラエルに侵入し、戦火の口火が切られて、今もイスラエル軍の侵攻は続いている。

 イスラエルの歴史やパレスチナ問題についての解説書はたくさんあるが、本書はアメリカ在住のユダヤ人によって書かれたものである。彼はイスラエル滞在経験があり、アメリカでイスラエルの民主主義を実現するための活動を展開しており、非常にバランスがよい。
 前半はイスラエルの歴史を旧約聖書の時代から語り下ろしており、とくに独立達成後については、イスラエルの国内政治、周辺アラブ諸国の事情、欧米諸国、アメリカ国内のユダヤ人コミュニティの動きなど、多様なアクターの動向に注目しながら、非常に丁寧に記されている。
 後半はイスラエルに固有の政治社会事情、つまり国外にいれば疑問に思うようなことがなぜイスラエルでは起きるのかについての解説が行われる。「イスラエルには外交がなく、あるのは国内政治のみである」とはどこかで聞いた話だが、その謎が少しは解けた気がする。最後には移民やパレスチナ系市民の声を集め、多様なイスラエル社会における民主政治と、イスラエルパレスチナの和解の実現に向けての希望が語られる。

 本書が書かれたが2021年、邦訳版が出たのが2023年1月のことである。巻末の解説は、元外交官の中川浩一氏によるものであり、その最後にこのような一文がある。

「残念ながら二〇二三年は、イスラエルパレスチナの憎しみと恐怖の連鎖がさらに激しさを増す年になるかもしれない。」

 残念ながら、彼の予想は当たってしまった。

 自分がイスラエルを旅したのは1999年、あのときにはラビン暗殺によって不安定化した中東和平プロセスにまだ一縷の望みが残されていた。その翌年、シャロンが神殿の丘に強引に押し入って、和平は完全に崩壊した。強引な入植が加速し、分離壁が築かれ、現在進行中のガザや西岸でのジェノサイドは止まる気配はない。
 著者はアメリカ在住のユダヤ人。イスラエル滞在経験があり、アメリカでイスラエルの民主主義を実現するための活動を展開している。

 

(こ)