角田光代訳『源氏物語 中』(河出書房新社)

角田光代訳の源氏物語の中巻である。

まずは「玉鬘」から「真木柱」までの、いわゆる玉鬘十帖。夕顔と頭中将との間の娘・玉鬘を中心とした、外伝的要素のある物語である。ここでは光源氏は、親切だけどちょっと面倒くさいおじさんのようである。最後はやや意外な展開で締める。

それから「梅枝」と「藤裏葉」で、いわゆる第一部が幕を閉じる。内大臣(頭中将)が夕霧と雲居雁との結婚を許し、2人は6年ぶりに再開する。明石の姫君は東宮妃として入内。紫の上は初めて明石の君に対面し、互いの人柄を認め合う。光源氏は准太上天皇となり、内大臣太政大臣となる。盛大な宴の中で、光源氏太政大臣は、若い頃の想い出を語り合う――。

大団円である。

続く第二部は、冒頭から「若菜 上」「若菜 下」という分量的にも内容的にもかなりヘビーな帖から始まる。

兄である朱雀院に懇願されてその娘・女三の宮と結婚した光源氏と、内心穏やかではない紫の上。蹴鞠の会で、猫が御簾を偶然引き上げ、柏木(太政大臣の息子)は女三の宮の顔を見てしまう。恋心を押さえられない柏木は、女三の宮と強引に関係を持ち、やがて女三の宮は子をはらむ。これを知った光源氏は、かつて自分が藤壺と犯した過ちを思い出しながら――。

その後の「柏木」で皇子(薫)が生まれ、そして柏木は死の床に着く。複雑な思いで皇子を抱き上げる光源氏・・・いやもうこれ、1000年前に描かれたこと自体が奇跡でしょ。

負の連鎖はこれで終わらず、「夕霧」では、今度は光源氏の息子・夕霧が亡き柏木の妻(落葉の宮)に思いを寄せ、やはり強引に関係を持ってしまう。真面目な男が道ならぬ恋に落ちると何も見えなくなる、というのは今も昔も変わらない。

この第二部は、紫の上の死が丁寧に描かれ、そして光源氏の死が示唆されたところで終わる。

物語はまだまだ続く。

角田光代訳『源氏物語 中』(河出書房新社


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