福澤諭吉『現代語訳 文明論之概略』(伊藤正雄訳・慶應慶応義塾大学出版会)

当ブログで紹介した宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』ですが、なんと雑誌「ダ・ヴィンチ」のBOOk OF THE YEARにおいて小説部門1位に輝きました!
おめでとうございます!
デビュー作で1位・・・。

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ずっと角田光代訳『源氏物語』を読み続けているため、今回も「今まで読んだ中で特に印象に残っている本」を紹介したい。伊藤正雄訳の福澤諭吉『現代語訳 文明論之概略』である。

明治8年に出版された大書『文明論之概略』。これを福澤諭吉研究の第一人者が現代語に訳し、註と解説を付した本である。2010年に復刊された。

封建制度の中で生まれ育った福澤諭吉が、西洋の政治哲学、さらには「文明」というものに触れた。その驚きや衝撃が、福澤諭吉にこの本を書かせたといっていいだろう。全編をとおして、この思想を日本に伝えなければ――という情熱が感じられる。

本書で特筆すべきなのは、伊藤正雄によって付された膨大な註である。文字数だけでいえば、おそらく本文を軽く超えているのではないか。読み手の理解を助けるとともに、あらためて著者による福澤諭吉研究のすごみを感じさせる。

『学問のすゝめ』も『福翁自伝』も十分面白い。しかし、読み応えという点では『文明論之概略』は群を抜いている。現代からするとやや疑問のある内容・表現もないではないけれど、『文明論之概略』が出版されたのは明治維新の動乱冷めやらぬ時代。憲法も議会もない時期に、これだけの思想書が出版されたのは、奇跡に近いというべきであろう。

福澤諭吉『現代語訳 文明論之概略』(伊藤正雄訳・慶應慶応義塾大学出版会)


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