池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07『枕草子・方丈記・徒然草』(河出書房新社)

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さて。再び古典である。池澤夏樹=個人編集 日本文学全集07『枕草子方丈記徒然草』。

枕草子」を酒井順子が,「方丈記」を高橋源一郎が,「徒然草」を内田樹が現代語訳を担当。相変わらず,豪華な訳者陣である。

枕草子酒井順子訳)

これまで「方丈記」と「徒然草」は現代語訳で読んでいたが(今でも持ってる),「枕草子」は未読で,ちょっと引け目も感じていた。酒井順子訳なら読み通せるのではないかと思い,チャレンジ。

「春は,夜明けが好き。」

この冒頭が秀逸。教科書的には「・・・が良い。」と訳すか,あるいは原文どおり体言止めにするところを,酒井順子訳は「・・・が好き。」とした。『枕草子』という作品が,単なる客観的な事実の羅列ではなく,清少納言の主観的価値観のストレートな表れであることを,高らかに宣言している。

内容も楽しい。中宮定子との思い出。好きなもの,嫌いなもの。和歌や漢詩。「近くて遠いもの」に「12月末日と1月1日との間」などを挙げ,なるほどと思わせたかと思うと,「遠くて近いもの」として「男女の仲」などとさらりと書いたりする。別れた夫(橘則光)がしばしば出てくるのも可笑しい(明石家さんま大竹しのぶみたいだ)。

清少納言,楽しい人である。

方丈記高橋源一郎訳)

今回最大の話題訳。タイトルが「方丈記(モバイル・ハウス・ダイアリーズ)」,著者が「カモノ・ナガアキラ」,第1段のタイトルが「リヴァー・ランズ・スルー・イット」。そして著名な冒頭はこんな感じ。

「あっ。
 歩いていたのに,なんだか急に立ち止まって,川を見たくなった。
 川が流れている。」

・・・いや創作しすぎでしょ(笑)。

その後も,人名や地名はすべてカタカナで表記され,年号はすべて西暦に置き換えらえれ,「ホテル」「レストラン」「首都」「ダンサー」などのパワーワードが並ぶなど,なかなかの現代語訳である。

方丈記くらい,みんな一度は読んでるでしょ。それを今さら逐語訳にしたところで,芸がないんじゃないの――源ちゃんのそんなつぶやきが聞こえてきそうである。

ちなみに読みやすさは抜群。鴨長明が現代に生きていて文章を書いたとしたら,案外こんな文体になるのかもね。Amazonのレビューは酷評が多いけれど,僕はありだと思うなあ。

徒然草内田樹訳)

最後は徒然草。冒頭の「・・・あやしうこそ物狂ほしけれ」は,「自分では制御できない何かが筆を動かしているようで,怖い。」との訳。なるほど。

・・・と思って読み進めていくと,「古の聖賢の政治を忘れて,・・・偉そうな様子をしている人間を見ると,こいつら頭の中空っぽなんじゃないかと思う」(第2段)。いやいや,内田樹兼好法師,口が悪すぎでは(笑)。

そもそも徒然草,内容的にも悪口が結構ある。教科書によく取り上げられている「仁和寺のある法師」の話も人の無知を笑う内容だし。そんな内容と内田樹の文体とが,奇跡のコラボ。面白い。


(ひ)