有賀健『京都 未完の産業都市のゆくえ』(新潮選書)

 ゴジラ-1.0、観ました。圧倒的によかったです!!
 1954年のゴジラでは観客にとって当たり前だった「あの戦争体験」を強調して描いたのは、時代の要請として正解だったと思う。神木浜辺ペアも朝ドラに続いて(撮影はこちらの方が早かったらしいけど)安定の演技。

 

 正直、京都について大学の先生が書いた本は少々食傷気味なこともあって、帯もなんだか軽そうな雰囲気だったので、期待しないで読み始めました。有賀先生すみません、ガチでした。
 というわけで本書は、応用経済学が専門の京大名誉教授がガチで書いた近代京都に関する経済地理の本。「三都」のひとつであった京都が東京や大阪のように近代になって発展できなかったのはなぜか、という問いを、産業集積、人口移動、市街形成などさまざまなアプローチから議論する。たとえば「京都ベンチャー」についても通説を覆し、京都は産業集積という点からベンチャー企業のスタートアップには不向きであると結論づけているし、京都には(右京区西京区向日市長岡京市・南区・伏見区という)「南西回廊」とも呼ぶべき郊外が存在したことで、西陣・室町によって支えられる旧市街が温存され、東山~北山~嵯峨野の観光名所が残ったという指摘は、なるほどである。

 本書は最後に、これからの京都を発展させる方向性についても提言している。その重点は交通アクセスに置かれ、都市高速の中心部乗り入れ、環状地下鉄、「田の字地区」の道路拡張工事、などがその中心となっている。
 これがいいかどうかはなんともいえない。ただし、積み上げられたエビデンスに基づく議論は非常に説得的であり、これをどう咀嚼し活かしていくことができるかが、これからの京都市政に与る者に問われている。

 折しも京都市長選挙が近く、4人の候補者がすでに街に出て支持を訴え始めている。4人ともそれなりに知っている身としては、この本の内容を理解してきちんと議論の俎上に載せられるのは、1人しかいないな、と思う。ただその人も、このあいだ笑顔つくりながら学校のトイレを素手で掃除していたから、なんだかなぁ、と思うのだけど。まぁ、16年居座った和服のおっさんよりはマシか。

(こ)