佐野大介『孟子』(角川ソフィア文庫)

当ブログで紹介した前田雅之『古典と日本人』に、四書(論語・大学・中庸・孟子)のうち読み残していた「孟子」をようやく読み終えたとする明治初期の一庶民の記録が紹介されている(248頁)。

僕も「論語」「大学」「中庸」までは訳注付きで読んでいたし、今でも手元に置いているのだけれど、「孟子」だけは手が出なかった。

加地伸行『全訳注 論語』、宇野哲人『全訳注 大学』、同『全訳注 中庸』(いずれも講談社学術文庫

この際読んでみようと思ったが、いきなり訳注付きはハードルが高そうなので、「ビギナーズ・クラシックス」シリーズの佐野大介『孟子』から入ることに。いつもいつも、本当にお世話になっています。

「梁恵王篇・上」から「尽心篇・下」まで全14篇の形で伝わっている「孟子」。成立の詳細はよく分かっておらず、孟子の死後に弟子達によって編纂された部分も多いのではないかとされている。

冒頭は梁の恵王との対話から始まる。恵王が「わが国に利益を与えてくださるのでしょうか。」と問うのに対し、孟子の答えは、利益は重要ではなく、重要なのは仁義だけであると答える。恵王と孟子との立場の違いが明らかになるとともに、この本を貫く孟子の考えがよく現れたところでもある。

「離婁篇・下」の第3章では、孟子は、君臣関係とは臣が君に対して一方的に忠誠を尽くすものではなく、双務的な関係にあって、君に値しないような君には、臣もそれ相応の態度を取ってよいとする。このような孟子の考え方は、江戸時代の学者からは強く非難されていたというのが興味深い。

ところで本書では、「孟子」を典拠とする言葉がまとめて取り上げられている。「五十歩百歩」「木に縁りて魚を求む」などは孟子由来の言葉として有名なところであるが、他にも「匹夫の勇」「助長」「曰く言い難し」「自暴自棄」「私淑」「往く者は追わず、来る者は拒まず」「似て非なるもの」なども「孟子」を典拠とするという。日常用語に根差した孟子、ちょっと面白い。

佐野大介『孟子』(角川ソフィア文庫


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