角田光代訳『源氏物語 下』(河出書房新社)

先生ご指摘のとおり、今年の大トリは角田光代訳『源氏物語 下』。光源氏亡き後の物語。

「匂宮」「紅梅」「竹河」のいわゆる匂宮三帖を経た後(いずれも断片的な話)、いよいよ最後の山である宇治十帖に突入する。

この宇治十帖、角田光代訳で約500頁もある、かなり独立性の高い長編である。これまでの華やかな話とは異なり、登場人物らの苦悩に重きを置かれていて、よく言われるとおり、まるで近代文学のようである。

前半で描かれるのは、薫と匂宮、そして大君・中の君の男女4人。自己の出生に秘密を抱える薫、そして亡き父・八の宮の言葉が呪縛となる大君と中の君。それぞれの思惑がすれ違い、嫉妬と苦悩が行き交う。

そして、中盤から登場するのが、この物語の最後のヒロイン・浮舟である。いや、この内面描写の多さは、もはや宇治十帖の真の主人公と言っていいのかもしれない。

最後は余韻を残した形で終わる。その後の展開は読者の想像に委ねられる。

さて、これで角田源氏も最後まで読み終えた。現代語訳という制約があるにもかかわらず、かなり読みやすい訳文だったと思う。複雑な敬語や婉曲表現を和らげる一方、原文からの乖離は最小限にとどめている。まるで原文が透けて見える訳文のように感じられ、趣があった。

それにしても、やはり紫式部はすごい。

角田光代訳『源氏物語 下』(河出書房新社

角田光代訳『源氏物語』と『光る君へ 前編』


(ひ)