本郷和人『「将軍」の日本史』(中公新書ラクレ)

 大先生による大トリは、きっとあの日本文学史上最高傑作がくるだろうと思っていて、もうそれが待ち遠しくてしかたないのですが、私の方は、大河「光る君へ」につなぐためにも、2年連続の将軍ものだったので、「将軍」で締めようかと。
 といいつつも、大先生が中公新書などでめぼしいところは抑えているので、もうざっくりと、最近いろいろなところに顔を出しているけれど専門は日本中世政治史である本郷先生に、「将軍って何ですか?」ということについて整理してもらいました。

 

 本書は、将軍権力の「軍事」と「政治」の二面性を中心に据えながら、源頼朝から徳川慶喜までの武家政権の権力構造について概観していく。権門体制論と東国国家論にも触れつつ、次第に将軍権力が輪郭を整えていくようすが描かれ、江戸時代に朱子学を導入して君臣の関係を固定化するまでは、「君は舟、臣は水」と家臣が将軍をつくってきたということについては繰り返し言及される。だから、社会が安定すると世襲に基づく軽い神輿が選ばれるため、神輿が自ら動くと不都合が起きるので家臣によって葬られてきたというのは、納得である。

 内容自体は、それなりの知識があれば、目新しい話ではない。中世史のバージョンアップはめまぐるしく、学校で使う歴史の教科書にも、慎重な記述によってこうした知見が行間を盛り込む工夫がなされている。ただし、その行間を読めないで、旧来の説を自信を持って教える先生が多いのだと思うし、たとえばバイトの塾講師はきっと、行間のない塾のテキストを使って、昔習ったことを子どもたちに教えていることだろう。

 本書には師である石井進教授との問答が思い出として差し込まれており、実はそこがいちばんおもしろく感じたところであった。自身もかつての師の歳になり、師の立場となって、振り返って思うところは多々あるのではないか。

 

 ちなみに帯には本郷先生の顔がデカデカと掲載されている。一般的に、帯や表紙に著者のどや顔が使われている本は、中身がペラペラであることが多い。正直言えば、本書もどちらかというと、軽い。ただその中ではマシな方だと思う。

(こ)