岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版)

 虫垂炎の手術で入院している。
 お見舞いもなく、フロア間の行き来も禁止。痛み止めさえ効いていれば、あとはふつうに暮らせているので、面会用のテーブルを独占して、一日本を読んで過ごすことができた。悪くない。
 ようやく『同志少女よ、敵を撃て』を読むことができて、今、その余韻に浸っている。『黒牢城』や『塞王の楯』とは違うすさまじさがあって、たしかに直木賞の枠ではないのかもしれない。でも、すごかった。
 しかもよりによって、ふたたびキエフが、ハリコフが、戦場となるとは・・・。こんな地獄を経験したのだから、もう戦争は起こらないだろうという彼女たちの希望は、もろくも崩れ去った。

 さて、『政治学者、PTA会長になる』は、このあいだ『なぜリベラルは負け続けるのか』で昨今の日本の政治状況をぼやきつつ開き直りつつ分析した岡田氏が、こんどは3年間の小学校PTA会長を回顧する。
 会長となった氏は、最初はPTAのあまりのめちゃくちゃぶりに、改革をしていこうとするのだが、もちろん思うようにいかない。しかし、みんなの力で少しずつPTAが変わっていく。

 これが、意外に(失礼!)おもしろくて、線を引きながら読み進めた。

 PTAが変わった、という本はいくらでもある。しかし本書がおもしろいのは、社会科学を営みとする研究者が、PTAの諸活動の持つ「機能」に着目しながら、その機能を保持しつつよりよい改善策を、「ボランティア」による自発的集団における「自治」という政治活動を通して実現させていく、そのプロセスに対する分析である。

 本書で描かれてることは、PTAの話に限らず、「なぜ人は変化を不安に感じるのか」「なぜ組織維持が自己目的化するのか」「1人1役をなぜボランティアに求めてはいけないのか」「リーダーとオペレーターはどう違うのか」など、いろいろと示唆に富む。うちの職場の組織についても十分に当てはまる。

 そして、機能に注目して、機能を代替させて業務を合理化、適正化しつつ、先人たちの情や声にならない声を切り捨てない。このような、機能に重点を置きながら進められる制度改革には、社会科学者の知見が必要になってくるのではないか。

 ただし、実際に組織を動かすのは人である。組織を変えるのは、よそもの、わかもの、ばかもの、だというけれど、生活者として地域に根ざした(サッカー教室や幼稚園での保護者のつながりをつくってきた)民主主義の研究者が、Cool Head と Warm Heart によってPTAを変えていった、そんな3年間の記録である。

 3食出て、静かに本が読めて、しかも入院中だから仕事できなくて当然だし・・・。
 もう少しいてもいいかな、と思っていたら、先生から、術後の経過がすごぶるいいので、もう明日退院してもいいです、と言われてしまった。ホテルじゃないし、もう少しいさせてください、とも言えず・・・。

 もう手術はしたくないけど、あと1日くらい居たかったな。

 

(こ)