螺旋プロジェクト

原始:「ウナノハテノガタ」 (大森兄弟)
古代:「月人壮士」 (澤田瞳子) 
中世・近世:「もののふの国」 (天野純希)
明治:「蒼色の大地」 (薬丸岳) 
昭和前期:「コイコワレ」 (乾ルカ
昭和後期:「シーソーモンスター」 (伊坂幸太郎)  
平成:「死にがいを求めて生きているの」 (朝井リョウ
近未来:「スピンモンスター」 (伊坂幸太郎)  
未来「天使も怪物も眠る夜」 (吉田篤弘) 

 

中断をはさんで、ようやく最後までたどり着きました、「螺旋プロジェクト」。

(1) 「海族」と「山族」の2つの種族の対立を描く。
(2)全ての作品に共通キャラクターを登場させる。
(3)ある共通シーンや象徴モチーフを出す。

という共通ルールがあって、話の中盤でそのアイテムに変化が起きるとき、物語が動き出すのです。

大先生が単独で2作品紹介されていて、私も1作品先週書かせていただきましたが、単独で作品を読んだときの評価と、9作品の中での評価は大きく分かれるように思います。
たとえば「死にがいを求めて生きているの」は、作品自体のインパクトはすごく強いのだけれど、プロジェクト全体を通して流れているものと少し共鳴の仕方が違っていて、違和感を禁じ得ませんでした。

また、原始時代を扱った「ウナノハテノガタ」と、未来(21世紀末だから実はそんなに未来でもない)を舞台とする「天使も怪物も眠る夜」は、設定そのものがすべて仮想世界であり、一種のSFなのですが、ちょっと苦手だったかも。

個人的には、いちばん読みやすかったのは「シーソーモンスター」。伊坂節、健在。
もののふの国」の、大河ドラマをはるかに超える壮大な時間移動(承平天慶の乱から戊辰戦争まで)は圧巻だったけれど、いちばん衝撃を受けて今でも余韻が残っているのが「月人壮士(つきひとおのこ)」でした。
主人公の首(おびと、聖武天皇)の遺言とそこに潜む深い深い孤独の理由が、登場人物たちによる謎解きによって少しずつ明らかにされていく。そこではプロジェクトの共通ルールがあたかも旋律のように奏でられ、読み進めるに従ってその2つの旋律が絡まり合い共鳴しながら、クライマックスに向けて一直線に流れ込んでいく。
交響曲を聴いているような不思議な作品でした。

 

すべて中央公論新社刊。プロジェクト第2弾が進行中だそうです。

(こ)