勅使川原真衣『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)

前著『「能力」の生きづらさをほぐす』で、「能力」という一件客観的で実はうつろい続ける評価軸に評価する側もされる側も翻弄される現代社会において、そのカラクリを明らかにしようとした著者が、そうした「能力」によって評価する/されることから下りることを提案したのが本書である。

次々と能力が定義され、その計測法がビジネスモデルとなって売り出され、評価する側もされる側もそれに合わせて右往左往する。そこからどうやって自由になるか。実は本書の結論は明確ではない。

学校関係でも「能力」は根強い。10年ほど前には「自他の理解能力」「コミュニケーション能力」「情報収集・探索能力」「職業理解能力」「役割把握・認識能力」「計画実行能力」「選択能力」「課題解決能力」を養成しろといわれたが、今はそうではなくて「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・「管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」が求められるのだそうだ。どう違うのか。わからん。

文科省が「やったつもり」になるには、これはちょうどいい。やったつもり、わかったつもりになれる「答え」があることが大切で、次から次へと登場する「能力」はそのための手段にすぎない。それに振り回せる人生をどう回避するか、それが彼女が出そうとしている答えである。

 

彼女は進行ガン患者で、2人の小さいお子さんを抱えたシングルマザー(だったはず、違ったらごめんなさい)。彼女の命の火が消えるまで、彼女はこの社会にもの申し続けることだろう。それが1日でも長く続くことを祈るばかり。

(こ)