サイモン・バロン=コーエン(篠田里佐訳)『ザ・パターン・シーカー 自閉症がいかに人類の発明を促したか』(化学同人)

 本書は、ケンブリッジ大学自閉症研究センター所長であるバロン=コーエン博士による、自閉症と人類の進化に関する壮大な物語である。
 冒頭で少年アルのエピソードが語られる。アルは言葉を話すのが遅く、話すようになってからも他の子どもとは違う言葉遣いをし、「なぜ?」を繰り返した。アルは周囲の理解とさまざまな僥倖に恵まれ、発明王となった。エジソンのことである。
 ジョナもアルと同じ傾向を示している。しかし、現在32歳のジョナはなかなか職に就くことができず、引きこもって暮らしている。

 アルやジョナに限らず、一部の人たちにはシステム化思考、すなわち「if-and-then」という思考に著しく高い適応を示すことがある。これは、①問いを立て、②仮説を立て、③テストと確認を重ね、④修正する、という思考であり、科学的思考の枠組みそのものである。そしてこれの思考パターンが、発明を可能とする。たとえば、4万年前に骨の空洞から音が鳴ることに気づいたある人が、①骨を使って音を鳴らせないかと考え、②骨に穴を開けて穴を塞いだらある高さの音が出ると考え、③テストし、④2つめの穴を開けると別の音が出ないか考え、③テストすることを繰り返すことで、骨でつくったフルートが作られたのだ。

 動物は、学習し模倣することはできるが、システム化によって新たなものを生み出す能力は備えていない。人間は、他の動物にはない「システム化」と「共感」という2つの能力を身につけたことで、文明を生み出し発展してきたのである。そして自閉症遺伝子が、高いシステム化能力によって人類の発明の進化をうながしてきたのである(ただし、高いシステム化能力があるからといって自閉症ではなく、その逆も同じである)。

 たくさんの事例を挙げて、博士は自閉症への理解を強く求めている。私たちの文化や社会が、科学・技術・芸術・その他の発明の原動力となってきた彼らを受け入れることが大切なのだと。

 

 本書を翻訳して日本に紹介したのは、普段から自閉症の人たちの「生きづらさ」と向き合い支援している人たちである。論旨は明確で、そして、とても視点があたたかい。

 

(こ)