あけましておめでとうございます。
このブログも7年目に突入。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
2023年の1冊目、通算563冊目は、この本から。
ときは2037年、大学を出て就職したものの会社でつらい思いをしている息子と、高校生の娘の前に、ガンで死んだ母がユウレイとなって現れる。母は昔、教育社会学を専攻して、大学院ではメリトクラシー(能力主義)が大学の教育活動を振り回すプロセスに切り込み、その後、外資系コンサルなどを経て、独立して人と人をつないでいく組織開発を支援する会社を立ち上げる。2人の子どもにも恵まれた彼女を、ガンが襲う。すでにガンは転移しており、厳しい闘いが始まった。
本書の前半は、メリトクラシーに関するオーソドックスな説明が展開され、(天野郁夫→苅谷剛彦→本田由紀・中村高康、という東大系の)教育社会学の概説書となっている。
その後、著者の問題関心であった、大学の教育活動に「能力」が入り込みその中身を変えていくプロセスが、慶応SFCを事例として描かれる。
後半は著者が大学院を出てから身を置いたコンサル業界が、「能力」をいかにビジネスとして成立させているかという裏側に迫る。コンピーテンシーという便利な概念を中心に、パフォーマンスの高い社員をどう確保し、リーダーシップを発揮してどのように組織を動かしていくか、というように、評価の正当性を求める企業に応える形で「能力」を徹底的に掘り下げていくことによって人材ビジネスは拡大していき、その結果、労働者はありとあらゆる「能力」によって切り刻まれ、個人のすべてが評価の対象となる。
そのシステムを支えているのは企業の利潤追求だけではない。その根底にあるのが「はっきりとした答えが欲しい」という人間の願望であるという。それは著者自身が、その願望によって取り返しのつかない過ちを犯してしまう(ガンの発見を遅らせてしまった)。著者はこのことが、悔やんでも悔やみきれない。
本書は、最愛の子どもたちが大きくなったときに伝えたい、母からの最後のメッセージである。
令和版「この子を残して」。
2022年12月25日発行の、お母さんからのクリスマスプレゼント。
(こ)