夏川草介『スピノザの診察室』(水鈴社)/小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)

朝ドラ「虎に翼」がとてつもなく面白い。

憲法14条の条文の朗読から始まったこのドラマ。戦前戦後の男女同権という重いテーマを扱いながらも、笑いあり・涙ありのとんでもないエンタメ作品に仕上がっている。特に昨日放送分のラストは感動した。NHKのドラマってこんなにすごかったんだ(ごめんなさい)。

各種配信サービスでも配信されているようなので、今からでも間に合います。第1週放送分だけでも、一見の価値ありです。

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さて、いよいよ本屋大賞の発表が迫ってきたので、今週はノミネート作品のうち2本をご紹介。

まずは、夏川草介スピノザの診察室』。京都を舞台にした、医師の物語である。

雄町哲郎(おまち・てつろう)。かつては名門・洛都大学で難手術を次々とこなしていた彼は、今は訳あって町中の地域病院で勤務していて――。

全4話からなる連作短編集だが、全体で一つの大きな話を構成してもいる。

大学病院における最先端の医療。一方で、死と向き合う町医者としての生き方。オランダの哲学者・スピノザの名を冠した本作品は、読者を哲学的思索にもいざなう。

大学病院モノにありがちなドロドロの権力闘争を描くわけではなく、奇跡の救出劇を描くわけでもない。ただそこには、患者と向き合う医師の姿がしっかりと描写されている。

京都が舞台というのがまた、物語に奥行きをもたらす。古都ならではの甘味も度々出てくる。・・・阿舎利餅、食べたい。

出版社は水鈴社。小さな出版社なのだけれど、これで当ブログで取り上げた本は3冊目となった。どの本も珠玉の作品。

夏川草介スピノザの診察室』(水鈴社)


もう一冊は、小川哲『君が手にするはずだった黄金について』。

こちらは全6編からなる連作短編集・・・なのだが、主人公は「僕」こと小川哲。どれもこれも、「僕」の日常と思索を描いた作品である。

就職活動のエントリーシート(第1話「プロローグ」)。あの日、何をしていたのか思い出せない・・・(第2話「三月十日」)。高校の同級生からの頼まれ事(第3話「小説家の鏡」)・・・。どこかまでが事実で、どこからが虚構なのか。エッセイとも私小説とも異なる心地よい混乱の中で、ストーリーは進む。

第4話「君が手にするはずだった黄金について」と第5話「偽物」は、どちらも一癖も二癖もある知人の話。そして最終話「受賞エッセイ」は・・・え、これエッセイじゃないの?それともやっぱりエッセイなの?

困ったことに、どの話も面白い。平日の夜に読み始めたのだが、早速後悔した。どれもこれも続きが気になって、中断できない。休日の昼か、そうでなければ金曜日の夜に読むべきであった。

小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)



(ひ)