きっかけは先月から始まった文庫本化。全8冊を月1冊ペースで順次刊行していくという。試しに読んでみたところ、思いのほか読みやすかったので、この際、刊行済みの単行本で読んでいくことに。
全3巻。これまでたびたび紹介してきた、池澤夏樹=個人編集「日本文学全集」のうちの3冊である。
上巻は「桐壺」から「少女」まで。光源氏の栄華を描いた部分である。
先にも書いたが、この角田訳、結構読みやすい。もちろん古典の翻訳ということでいろいろ制約があるところはあるが、それでもかなり平易で自然な現代語である。しかも、くだけすぎて品が落ちるようなこともない。
ところでこの源氏物語、やっぱりすごい物語である(当たり前だが)。
華やかな貴族社会の恋愛模様を描く一方、「嫉妬」「苦悩」「悲しみ」といったネガティブな感情もきっちり描写する。多種多彩な登場人物は、それぞれにキャラが立っている。物語としてみても、一帖一帖それぞれが珠玉の短編であり、なおかつ全体として雄大なストーリーを構成している。
中でもやはり、序盤最大の山場である「葵」がすさまじい。葵の上と六条御息所の車争い。身ごもった葵の上にとりつく物の怪。着物にしみ込んだ芥子の香りによって、御息所は自分が生霊となっていたことを確信する。葵の上は男児を出産するが、その直後に亡くなる。苦悩する光源氏。そしてついには、幼少時から育ててきた紫の姫君(紫の上)と強引に関係を持つ・・・いやあ、こんな壮絶なストーリー、よくもまあ1000年も前に考えたなぁ。
他にも、藤壺が皇子を出産したものの、その顔は光源氏と瓜二つであり、藤壺と光源氏が罪の意識にさいなまれる「紅葉賀」、光源氏が朧月夜と密会を重ねていたところ、右大臣(朧月夜の父)に見つかってしまう「賢木」、須磨への下向と明石の君との出会い、そして京への復帰を描いた「須磨」「明石」など、練られたストーリーが続く。他方、「空蝉」「夕顔」「末摘花」「蓬生」「関屋」など、本編のストーリーとはやや独立した話もそれぞれ魅力的である。
最後は「少女」。光源氏が広大な新邸(六条院)を完成させ、その東南に紫の上、東北に花散里、西南に秋好中宮、西北に明石の君を住まわせたところで、上巻が終わった。
(ひ)