フランス革命前後のロンドンとパリを舞台にした,重厚な群像劇である。
登場人物は多数に上るが,中でもバスティーユに幽閉されていたマネット医師とその娘・ルーシー,両名を見守る銀行員ロリー,それにルーシーに想いを寄せる亡命貴族ダーネイと弁護士カートンを軸に,話は進む。
歴史に翻弄される人たち。暴徒と化す群衆。理不尽な身柄拘束。
これまでディケンズは『クリスマス・キャロル』くらいしか読んだことがなかったが(ごめんなさい),改めてその作家としてのすごさが感じられた。
山本史郎氏による巻末解説がまた,良かった。物語のテーマや背景を分かりやすく説明し,ディケンズの描写のすばらしさを伝える。例えば,ワイン樽が壊れて街路にワインが流れ出すシーン(上巻・50頁)での群衆の描き方につき,山本氏はいう。
「人々の描写といい,象徴性を帯びた赤い液体といい,まるで,現代映画のすぐれたカメラワークを見ているようではないか。ディケンズは写真がようやく広まり始めた時代に,百年先の映画手法を先取りしていたのだ。」(下巻・333頁)
この解説込みで,本当に良い作品である。
- 作者:ディケンズ
- 発売日: 2016/03/11
- メディア: 文庫
- 作者:ディケンズ
- 発売日: 2016/03/11
- メディア: 文庫
(ひ)