プーシキン『大尉の娘』(坂庭淳史訳・光文社古典新訳文庫)

フランス文学の次はロシア文学へ。少し前に『スペードのクイーン』を読んで面白かったので,またプーシキンを読むことに。今回は『大尉の娘』。

貴族の家に生まれた青年・グリニョーフは,辺境の要塞で大尉の娘・マリヤと出会う。二人は互いに惹かれあうが,ちょうどその頃,大規模な反乱が勃発し・・・。

18世紀後半の「プガチョーフの反乱」を題材に取った小説である。何より主人公・グリニョーフの描写がよい。若くて,甘くて,お人好しで,カッとなったりもして,いや本当に「お坊ちゃん」である。じいやのサヴェーリイチがまた,へりくだりながらもずけずけと言う人で,絶妙の組み合わせとなっている。

物語はグリニョーフが「僕」という一人称で語る形で進む。「わし」でも「私」でもなくあえて「僕」にした趣旨は,巻末の訳者あとがきにも書かれているのだけれど,グリニョーフのキャラクターにぴったりの訳だと思う。

解説によれば,『大尉の娘』は,明治時代,日本で最初に翻訳されたロシア文学という。明治の人たちもこの小説を読んでいたのかと思うと,なかなか感慨深い。

大尉の娘 (光文社古典新訳文庫)

大尉の娘 (光文社古典新訳文庫)


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