相澤真一・髙橋かおり・坂本光太・輪湖里奈『音楽で生きる方法 高校生からの音大受験、留学、仕事と将来』(青弓社)

 少し前のことになるが、「夢追い型進路指導」という概念が、教育社会学の世界で出てきたときには、まさに目から鱗が落ちるとはこのことか、と思ったものだ。一見「本人の夢を後押しする」という学校の進路指導が、実際にはほとんど実現できないような職業への道を「自己責任」によって歩ませることとなって、結果的に不安定な地位の若者たちを生み出すことになっている、というものだ。

 音楽の世界も、それで食べていけるのはごくごく一握りという、厳しい世界である。それでも、覚悟を持ってそこに飛び込んでいこうとする若者は必ずいる。
 本書は、音楽に造詣の深い社会学研究者2人と、プロの音楽家2人がタッグを組んで、国内外で活躍する音楽家へのインタビュー調査を下敷きに、サブタイトルにあるように「音大受験、留学、仕事と将来」について網羅的に編集されており、後輩たちに向けてのエピソードを交えたアドバイスの本として書かれている。進路や職業についての定番として「なるには」シリーズがあるが、こちらの方がより深いし、音楽の世界への愛がそこらじゅうから感じられる記述は、読んでいてほっこりする。 

 『蜜蜂と遠雷』と『のだめカンタービレ』の世界を思い浮かべながら、読む。練習法、師弟関係、人生の決断、業界裏話など、盛り沢山である。
 著者によれば、高校生にも手が出るように、なんとか価格を2,000円に抑えようと涙ぐましい努力もあったそうだ。そういうことも含めて、愛情がぎっしりと詰まった本である。 

 (こ)