横手慎二『スターリン 「非道の独裁者」の実像』(中公新書)

半藤一利『世界史のなかの昭和史』の内容を一言でまとめると,ヒトラースターリンに振り回された日本,ということになるのだろうか。『ノモンハンの夏』もそんな感じだった。

このうちヒトラーの生涯はなんとなく知っているけれど,スターリンについては断片的にしか知らなかった。そこで読んでみたのがこちら。横手慎二『スターリン 「非道の独裁者」の実像』。

スターリンの生涯を,様々な史料を読み解きながら丹念に解説した本である。

独裁者のイメージが強い(というか独裁者である)スターリンだが,少年時代に書いた手紙や詩をみると,ごく普通の,あるいはちょっとした優等生の少年であったことが見て取れる。

やがて革命活動に身を投じ,逮捕・流刑などを経て,ロシア革命とその後の内戦へと突入。権力闘争を勝ち抜き,最高指導者へと昇り詰める。

農業集団化の過程における大量の餓死者の発生。大粛清とその後の膨大な数の行方不明者者。晩年は,猜疑心により側近を次々と逮捕した。

そんなスターリンだが,現在のロシアでは,今もなお少なからぬ人々がスターリンを優れた指導者であるなどとし,肯定的な評価と否定的な評価とが拮抗しているという。このようなロシア内での議論状況について一章を割いて説明をした後,著者はこう述べる。

「ロシア国内でのスターリン評価は,外部,特に欧米諸国でのそれと大きく異なっている。(中略)両者のずれが大きくなるほど,内外の相互理解が困難になることは確かである。その意味で言えば,スターリンは今もなおロシアと外部世界の間にあって,両者の関係を示す重要な指標なのである。」(299頁)

歴史的評価というものは,なかなか単純ではない。そう思わされた一冊であった。

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横手慎二『スターリン 「非道の独裁者」の実像』


(ひ)