砥上裕將『7.5グラムの奇跡』(講談社)

 大先生が『線は、僕を描く』を激賞したのが2年前のこと。満を持して著者の第2作が刊行された。

 大学を出たばかりの視覚訓練士・野宮恭一は、北見眼科医院で働き始める。彼はとにかく不器用で、採用試験に落ち続け、同級生の中で唯一就職先が決まらずにいたところ、北見院長は「瞳の光を見つめるのが好き」という野宮の正直な告白を信じて、彼を拾うことにした。先輩の視覚訓練士や看護師たちに見守られ支えられながら、野宮は視覚訓練士としての一歩を踏み出した。

 5人の患者さんのケースと、その向こうにある5つの人生にぶつかりながら、不器用な青年が少しずつ成長していく物語。
 前口径24ミリ、重量7.5グラム、容積6.5ミリリットルの、目という人間が持つもっとも繊細な器官を通して、見えない光を文章として記述し、人の生き方の光までも描き出す。
 読みながら、映像が、そして光が頭の中で再生されるという、不思議な感覚を味わいながら、最後まで読み通した。老眼の進行を、ひしひしと感じながら。 

(こ)