せんせい,お大事に!
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亀山郁夫がプレヴォ『マノン・レスコー』を推していた。ロシア文学者がフランス文学を推す・・・これは読まねば。
良家に生まれ,学業優秀であったデ・グリュ。街で偶然出会った少女マノン・レスコーに一目ぼれをしてしまい・・・。
1731年刊行の小説である。著者は「神父(アベ)プレヴォ」とも呼ばれるプレヴォ。序文に「美徳」だとか「善良」だとかいった言葉が並んでいたので,これは堅苦しい道徳小説なのか・・と思ったら全然そんなことなかった。
「正しい道」と「正しくない道(破滅への道)」とがあった場合,主人公のデ・グリュは「正しくない道」を選ぶ。それも必ずといっていいほど毎回。なんでそっちを選ぶかね~と突っ込みを入れながら読み進めていくのだけれど,でも「正しい道」を選んでしまえば文学にはならない。そのうち「正しくない道」を選ぶ主人公の姿に,なんだか快感すら感じられるようになってくる。人間,不思議なものである。
なお,本作品は,主人公のデ・グリュが老貴族である「私」に身の上話をするという形式で進められていく。そのためデ・グリュの内面はよく分かるのだけれど,ヒロインであるマノン・レスコーが本当は何を考えていてどういう気持ちなのか,実はよく分からない(デ・グリュに向かってしょっちゅう「愛してる」とは言っているけれど。)。それがこの作品に解釈の「幅」を持たせ,奥深いものにしている。
ところで,本作の刊行から約250年後の1980年。岩崎良美が日本レコード大賞新人賞を獲得し,紅白歌合戦にも初出場したのだが,その時の曲が「あなた色のマノン」。なんと『マノン・レスコー』を題材にとった曲であり,サビの部分で「私はマノン~! マノン~レスコ~~!!」と高らかに歌い上げられる。・・・昭和歌謡,あなどれない。
(ひ)