バーネット『小公子』(川端康成訳・新潮文庫)

なぜかちょっとした『小公子』ブームである。昨年6月に新潮文庫から,今年1月に角川文庫から,そして今月は光文社古典新訳文庫からそれぞれ新刊が出た。

実は子供の頃に読まないまま大人になってしまったので,この際読むことに。選んだのは新潮文庫版。

アメリカ育ちの少年・セドリックは,ある日突然,祖父のドリンコート伯爵の跡取りとなることを告げられ,母とともにイギリスへ渡る・・・。

児童文学,と言ってしまえばそれまでである。しかし,主人公・セドリックの純真でピュアでまっすぐな性格は,読んでいて心が洗われるようである。

新潮文庫版の翻訳者としてクレジットされているのは川端康成。昭和35年の小学館版を底本とするものである。巻末の解説によれば,訳文づくりの大半は文学者の野上彰が担当したという。いずれにせよ,美しく格調高い訳文は,本作の世界観によくなじむ。

ところで,『小公子』を映画化したものの一つに,『リトル・プリンス』(1980年)がある。ドリンコート伯爵を演じたのは,サー・アレック・ギネス。こわもてで頑固な老伯爵が,次第にセドリックに心を許し,いいおじいさんになっていく。僕にとってアレック・ギネスは,オビ=ワンではなく,ドリンコート伯爵なのである。

小公子 (新潮文庫)

小公子 (新潮文庫)


(ひ)