堂場瞬一『ザ・ウォール』(実業之日本社文庫)

 BIG BOSS率いる北海道日本ハムファイターズを、ずっと気にかけている。どこかでこのチームは大化けすると信じているし、そうなったら日本の野球が変わる。
 ファイターズは来年春から新球場に移る。「世界がまだ見ぬボールパーク」なんだそうだ。球場にはそれぞれに個性がある。どんななのだろう、楽しみで仕方ない。

 この新球場に触発されたのだろうか。これはかつての名門東京スターズが、新宿にできたホテルやショッピングモールと一体化した新球場に移転して、そこで彼らが起こした奇跡の物語。ビルの合間に埋め込まれた球場なので、フィールドはいびつな形をしていて、しかも外野フェンスは不思議な形状をしている。

 低迷するチームに監督として迎えられたのは、かつていちどチームを追われた樋口。オーナーの沖は、勝利ではなく観客動員を至上命題として、現場に介入しまくってくる。チームはなかなかまとまらず、それでもスターズは少しずつ勝利を重ね、最後には優勝争いをするにいたる。相手は常勝イーグルス

 優勝のかかった大一番、息の詰まる攻防の中で迎えた最終回、「ザ・ウォール」の秘密を知ることになったチームは、賭けに出る。

 

 描写はきわめて詳細かつリアルで、だからこそ、映像がきっちりと再現されてしまうがゆえに、「この采配はないわ」とか「それはないやろ」という、いらぬ読み方をしてしまった。

 

 架空の球場の設計には、大学の研究室が全面協力したらしい。
 文庫本の巻末には、北海道ボールパーク建設に携わっている大林組のみなさんのインタビューつき(個人的には本文よりもおもしろかった)。

 

 いつか家族と一緒に、北海道へ野球を見に行きたい。チビたちはホークスのユニを身にまとい、父は金の大谷のユニを着て。

(こ)