真山仁『ロッキード』(文藝春秋)

 週刊東洋経済のGW合併特大号。1冊まるまる書評で、あれもほしくてこれも読みたくて、ああ・・・。

 

 さて、 ようやく読みましたよ、ロッキード
 ベストセラー作家の真山仁氏が、満を持してノンフィクションを上程。それも戦後最大の謎のひとつ、ロッキード事件に挑む、というものだ。膨大な資史料を読みこみ、関係者へのインタビューを重ねて、半世紀の時を超えてあらためてこの事件の真相と意義に迫った労作である。

 作者は次第に「村木事件」との共通点の多さに気づく。検察の作り上げたストーリーに従って捜査が行われ裁判が進められる。ただし、村木事件と違ったのは、ロッキード事件は社会的関心があまりに高すぎ、検察のストーリーを国民が熱狂をもって受け入れたという点である。当事者たちの認識も、さらに弁護団の戦術も甘かった。よりによって椎名裁定で三木が首相に選ばれていたことも角栄には災いした。最後は角栄が病に倒れ、公判途中で亡くなったことで、後味の悪さだけを残して裁判は終わった。
 なお、本書の終わりには、角栄が葬られたことで首の皮一枚つながったある政治家の名前があげられる。もっとも彼もすでに鬼籍に入り、こちらも真相は闇の中である。

 作中に、ひとりのノンフィクションライターが登場する。新聞記者を経て経済小説を書きながら、歴史家として名を残そうとした男・本所次郎である。彼が絶対の自信を持って発表した『麒麟おおとりと遊ぶ』は、若狭得治・元全日空社長のすべてを描き切ったものとして彼を知る人々の間では非常に評価が高い。ただし本書はまったく売れなかった。もしもこの本が脚光を浴びていたら、世論も変わり裁判のゆくえにも影響したのではないかと作者は考える。誠実な書き手でありすぎた彼に「ノンフィクションライター真山仁」は自らが理想とする姿を重ねたのだろう。

ロッキード (文春e-book)

ロッキード (文春e-book)

 
週刊東洋経済 2021/5/1-8合併特大号
 

(こ)