漆黒の闇の中、尖閣諸島に某国の工作員が上陸した。極秘のうちに工作員を「蒸発」させる命令が、特殊部隊に下る。ミッションに成功した彼らに次に与えられた使命は、クーデターが発生した北朝鮮からの拉致被害者の救出であった。
これは、「国のため」に厳しい訓練に耐え、命を差し出す男たちの物語である。
と同時に、「国のため」と言いながら自分たちの地位と利益を守ることに汲々とする男たちの話でもある。
世の中には「国家を利用する者」と「国家に利用される者」の2種類がいて、そのどちらでもなく、ただ国家にすべてを捧げる者たちがいる。そんな彼らが「国家を利用する者」たちによって道具として最前線に投入されたとき、そこには何が起こり、何が残るのか。
著者は元海上自衛官、イージス艦の航海長などを経て、特殊部隊の創設に携わった(作中にも「藤井」として登場している)。その張本人が書き下ろした小説であるので、とにかくリアリティの塊である(ときどき説明口調の長ゼリフが差し挟まれるのは仕方ない)。読みながら何度も息が詰まりそうになった。
彼が週刊東洋経済に連載していた「非常時の組織論」もたいへんおもしろく、連載中は欠かさず読んでいた。こちらも本にならないものか。
(こ)