西加奈子『くもをさがす』(河出書房新社)

 パサパサに疲れていたので映画観ようと、すずめの戸締まりをレイトショーで観たもので、心が引っかき回されてなんかおかしいです。隣のスラムダンクとかの方がよかったのかな。こういうときには何も考えずにトップガン見るくらいがちょうどよかったかな、やってなかったんだけど。ともあれすごい映画ですね。

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 さて。

 今年3冊目の、ガン患者によるエッセイ。

 4年前にくもの住むカナダ・バンクーバーの古い5階建ての家に移り住んだ西加奈子さんが、ある日、胸に1センチほどのしこりがあることに気づく。彼女は日記を書き始める。闘病記、というようなものではない。生と死の境界を目の当たりにしたひとりの作家が何倍にも敏感になったアンテナを通して日常を切り取ると、このように世界は見えるものなのか。

 ガンとは全く関係なく、彼女が描くバンクーバーでの多様性を「当たり前」のものとした日常と、一時帰国した日本の「狭さ」ゆえの喧噪の描写が、ずんと響く。病院の英語での会話が飾らない関西弁で書かれているのは、彼女がバンクーバーで感じている人との距離がそうさせるのか。

 彼女は寛解するのだが、文中、山本文緒さんの訃報が1行で告げられる。この乾ききった描写がまた、重い。

(こ)