海が走るコミック4選

・たらちねジョン『海が走るエンドロール』(ボニータコミックス)

うみ子,65歳。映画の世界へダイブ!

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たらちねジョン『海が走るエンドロール』

夫と死別し,独り暮らしのうみ子。ふと入った映画館で,映像専攻の美大生・海(かい)と衝撃的な出会いをする。海は言う。「うみ子さんさぁ・・・」

新しい世界へのチャレンジ。好きだったことへの挑戦。本作は主人公の心のゆらぎやとまどいも丁寧に拾いながら,これまでの人生から一歩踏み出した世界を描き出す。

波の表現がよい。主人公の心象に合わせて,波が足元に寄ってきたり,引いていったり。あと,細かいところだけれど,主人公の髪型。最初の頃はボサボサ気味だったのが,ストーリーが進むにつれて,きれいにまとめたり,思い切って短くしたりなどと変化していく。

なお,各話の扉絵は,様々な映画のオマージュとなっている。元ネタは何かを考えながら読むのも楽しい。

第1巻のラストは良い終わり方だった。いよいよ物語が,始まる。

 

・相尾灯自=澤村御影=鈴木次郎『准教授・高槻彰良の推察』(MFコミックス

「怪異は,現象と解釈によって成り立つんだよ,深町くん――」。怪異を愛する准教授と,常識担当の大学生コンビの民俗学ミステリ!

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相尾灯自=澤村御影=鈴木次郎『准教授・高槻彰良の推察』

ちょっと孤独な大学生・深町尚哉。「民俗学II」の講義を担当する准教授・高槻彰良に気に入られ,怪異収集を手伝うことに。実は深町自身も,幼いころに不思議な体験をしていて・・・。

日常に潜む怪奇現象・怪異現象の謎を,准教授と大学生が解決していくミステリである。元々は澤村御影の小説で,これを相尾灯自がコミカライズしたもの。TVドラマ化されてもいる,というか今まさに放送中である(なのだけれど実は見ていない。ごめんなさい。)。

高槻と深町の関係性がおもしろい。聡明でイケメン,なのに天然な高槻と,常識人で孤独な深町。基本的には高槻が謎を解いていくのだけれども,深町も決してワトソンの立場にとどまるのではなく,高槻を積極的に支え,行動する。

高槻も深町もそれぞれ過去に「秘密」を抱えていたりして,単なる謎解きものにとどまらない。女性向けコミック誌での連載なんだけど,男性でも十分読めます。

 

・西 炯子『恋と国会』(ビッグコミックス

前代未聞の国会ラブコメ!? 「あたしが総理大臣になる!」

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西 炯子『恋と国会』

元地下アイドルの山田一斗・25歳。東京1区から与党公認で初当選。
三代目世襲議員の海藤福太郎・25歳。神奈川15区から与党公認で初当選。
2人は今,政治家としての第一歩を踏み出した――。

現実離れしてそうで,でも小選挙区制の下だとひょっとしたらあるかも,という絶妙な設定がよい。陽気でまっすぐな一斗と,満面の作り笑顔&どこか冷めた心の福太郎。キャラクターの対比もおもしろい。ちなみに2人は街の曲がり角でぶつかって出会う。ラブコメの王道である。

第1巻は,基本的には各キャラクターの紹介と,後々回収されそうな伏線の紹介。今後,いよいよ国会を舞台とした恋の三角,四角関係に進むのか? それとも主人公たちが当選を重ね,政治家として成長し,ついには総理大臣の座を手にするのか?

・・・というところで,実は連載が1年以上も止まっている模様。他ではなかなかみられない舞台設定の作品なだけに,残念!

 

・梶川卓郎『信長のシェフ』(芳文社コミックス)

京都のホテルで働く料理人・ケン。目を覚ますと,そこは戦国時代だった――!

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梶川卓郎『信長のシェフ

ずっとずっと読み続けてきたこの作品。今月,ついに30巻に到達した。

ストーリーとしても最終コーナーに差し掛かり,佳境に入ってきた。信長の壮大な構想。ヴァリニャーノの思惑。そして,最近とみに出番の増えてきた明智光秀の思い。一方で,主人公・ケンの身辺にも大きな変化が(ついに!)。ラストではいよいよ「あの男」まで登場。とにかくてんこ盛りの巻となった。

第1巻が出されたのが2011年。おおよそ年に3冊くらいのペースで,ここまで来た。足掛け10年にわたる連載となっているが,連載当初からの読みやすくて安定した絵柄は今でも変わっていない。そしてそのストーリー。「料理人がタイムスリップ」というアイディアを大切にしながら,それにとどまることなく,史実と史実の間をきっちりと創作で埋め,良質のエンターテイメント作品に仕上げている。

それにしても,信長と西洋料理の取り合わせというのは,絵になる。本当に絵になる。


(ひ)