横溝正史『犬神家の一族』(角川文庫)

NHKBSで「犬神家の一族」をやっていた。ひとまず前編だけを見たが、結構面白かったので、原作も読むことに。横溝正史犬神家の一族』。

昭和20年代の信州。犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛が死去した。「斧(よき)」「琴(こと)」「菊(きく)」に象徴される莫大な財産。佐兵衛の遺した奇妙な遺言のせいで、次々と――。

横溝正史のメジャーな小説は大昔に一通り読んでいて、この『犬神家の一族』も読んだはずなのだけれど、ほとんど、というか全く覚えていない。なので新鮮な気持ちで読むことができた。

改めて感じたのはその読みやすさである。昭和25年に連載が開始されたので、もう70年以上も前の小説ということになるはずなのに、それほどつかえることなくスラスラ読める。これはもう、大衆文学の鏡と言っていいだろう。

ところで、犬神家の一族といえば、「白く不気味なゴムマスク」「水面から突き出す2本の足」の印象が強いが、これらは市川崑監督の昭和51年の映画が初出らしい(原作では比較的自然なマスクであり、また水面は凍っていて、足だけでなく腰のあたりから突き出ている)。とはいえこれらのイメージは強烈であり、以後、多くの映像化作品でこれらは踏襲されている。改めて映画の持つパワーを思う。

横溝正史犬神家の一族』(角川文庫)


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